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ショートコント:七夕殺人事件
(2006/07/06〜07/07作)


巡査「あ、こちらです警部!」
警部「やれやれ、やっと着いたよ。よりによってこんな山奥で事件なんて起こらなくてもいいのに」
巡査「こちらが現場です。ガイシャの名前は白鳥 出根武(しらとり でねぶ)。近所に住む無職の爺さんです」
警部「ふむ。どれどれ」
巡査「死因は鈍器による撲殺。多分石か何かで殴られたものと思われます」
警部「えー。何これ。随分派手な現場だねぇ」
巡査「えっと、はい。ご覧の通り、ガイシャは竹やぶの根元で体中を飾り立てられた状態で倒れていました」
警部「竹っていうか笹だね、これは」
巡査「そういえばもうすぐ七夕ですよね」
警部「ああ、そうか。短冊とか折り紙のちょうちんとか網飾りとか、死体にくっついてるのは七夕の飾りだね」
巡査「五色の紐でぐるぐる巻きにされてますね。端っこは固結びで結んであります」
警部「七夕も最初の飾りはこういう紐だけだったと言われてるよ。通な犯人だね」
巡査「どうして犯人はこんなことをしたんですかね」
警部「七夕に見立てた、と考えるのが自然だろうね。意図はわからないけど」
巡査「ふーむ、見立てですか…」
警部「それで、容疑者は?」
巡査「はい、二人います」
警部「二人もいるの?」
巡査「ええ、しかしこれが一筋縄ではいかなくて」
警部「いいから一人ずつ説明して」
巡査「あ、はい。えー、一人は辺賀 琴美(べが ことみ)。白鳥の姪に当たります。職業は自営の織物工」
警部「ほう」
巡査「彼女は付き合っている彼氏との結婚を白鳥に反対されていて、疎ましく思っていたようです」
警部「動機アリか」
巡査「はい。…しかし彼女にはアリバイがありまして」
警部「アリバイ?」
巡査「はい。実は彼女の家はこの川の向こう岸にあるのです」
警部「向こう岸…」
巡査「ご覧の通り、この川の橋は先日の大雨で壊れています。今は臨時の橋がかけられていますけど」
警部「つまり…事件当夜はこの川を渡ることができなかった、とこういうわけ?」
巡査「そうです。事件現場と彼女の家を行き来することは不可能だったのです」
警部「ふぅーん…」
巡査「もう一人の容疑者は有田入 鷲雄(あるたいる わしお)。死体の第一発見者です」
警部「ほう」
巡査「彼はあそこの家に一人で住んでいます」
警部「現場と目と鼻の先だね」
巡査「はい。職業は酪農家で、牛を飼っています」
警部「ふむ」
巡査「さっき言った、琴美の彼氏でもあります」
警部「つまり彼にも動機があったわけだ」
巡査「はい。しかし…彼にもアリバイがありまして」
警部「え」
巡査「ガイシャの殺された夜七時頃は、自宅で遠方の友人と電話していました」
警部「電話?」
巡査「はい。かなりの長電話だったようで、通話記録によると四時間も話していたようです」
警部「そりゃ随分長いね…」
巡査「携帯じゃなく家電話ですしトイレにも立たなかったそうなので、犯行に行く暇はなかったと思われます」
警部「それじゃ容疑者がいなくなっちゃうじゃないか」
巡査「うーん。困りましたねぇ」
警部「バカ。困りましたねじゃないよ」
巡査「すみません」
警部「うーん。例えば、琴美が川を泳いで渡ったとか…」
巡査「無理ですね。昨晩は先日の大雨の影響でこの川は流れがかなり激しかったそうです」
警部「ロープかなんかを川に渡してそれを伝ったとか…」
巡査「琴美は非力そうな女性でしたので、それも無理だと思います」
警部「きみ、いちいち口答えするね」
巡査「す、すみません」
警部「うーん…ちょっと整理してみようか」

 

巡査「絵、下手ですね」
警部「うるさいよ。とにかく、この赤い丸が被害者、青い丸が鷲雄、ピンクの丸が琴美だ」
巡査「はい」
警部「事件当時、橋が壊れていたため琴美は現場に行くことができない」
巡査「そうです」
警部「そして鷲雄は殺人の起こった時間帯、別の人間と電話で話し中だった…」
巡査「ううむ。やっぱり二人とも犯人ではないんでしょうか…」
警部「いや、一つだけ考えられる手段がある」
巡査「えっ」
警部「琴美が殺害し、その後死体だけを川の向こうの鷲雄に渡す。そして鷲雄が飾り付けをした」
巡査「ふ、二人は共犯だったってことですかっ」
警部「それくらいしか考えられない」
巡査「た、確かに死体を受け渡すだけなら鷲雄が電話を終えた後でもできますね」
警部「しかし、そうなるとどうやって死体を受け渡したかが問題だ」
巡査「確かに。死体は水に濡れていませんから、川に落としちゃいけませんし」
警部「何か道具を使ったけど、それを川に流して隠滅することは…?」
巡査「ありえませんね。このすぐ先には小さなダムがあるんですが、捜査済みです。不審な物はありません」
警部「どこか周囲に捨てたってことも…」
巡査「全力を挙げて周辺を捜索していますから、あればすぐに見つかっているはずです」
警部「ということは、その辺にあるものをうまく利用したと考えるのが自然だね」
巡査「は、はぁ。しかし一体何をどうやって…」
鑑識「警部!」
警部「ん、何だい」
鑑識「詳しいことは署に死体を持って帰って調べてみないとわかりませんが…」
警部「何かわかったの」
鑑識「死後少ししてから、かなりの勢いで転がされた形跡があります」
警部「転がされた…?」
鑑識「はい」
警部「…ふぅん、なるほどね。ありがとう」
巡査「警部…?」

警部「えー、今回の事件は琴美と鷲雄の共犯によるものです。
    死体を川の対岸に運んだのは、お互いのアリバイを立証するためでしよう。
    しかし、一つだけ大きな謎が残っています。
    そう。死体をどうやって対岸に渡したか。

    えー、ヒントは3つ。
    使用した道具はその辺にあったもののみであること。
    死体がかなりの勢いで転がされた跡があること。
    そして、なぜ死体は七夕っぽく飾り立てられなければならなかったか…?

    解決篇はこの後すぐ」

















巡査「警部、一体二人はどうやって死体を川の向こう岸に渡したんですか?」
警部「簡単に言えば、川に即席の橋を架けて、対岸まで一気に引っ張ったんだよ」
巡査「え! は、橋ですか!? しかしそんなものちょっとやそっとでできるものじゃ…」
警部「できるよ。ちょっと重い荷物がほんの数秒通り過ぎるまでの間だけでよかったんだから」
巡査「そ、それは一体…?」
警部「もう一度図を見てごらん」

 

警部「死体のあった笹の対岸に森があるだろう」
巡査「はい」
警部「犯人は森の木々と笹の間に大量の糸を渡したのさ」
巡査「い、糸ですか!?」
警部「ああ。何重にも何重にも、ぐるぐるとね」
巡査「しかし、糸程度の強度で人の体を支えるなんて…」
警部「何言ってんだい君。何十本何百本もの糸をより合わせれば、糸は紐に紐は綱になるんだよ?」
巡査「う、ううん…」
警部「それに、そんな完璧な強度なんて必要なかった。上を死体が数秒通ればよかったんだから」
巡査「で、でも、そんな大量の糸がどこに…」
警部「何言ってんの。辺賀 琴美(べが ことみ)は機織が仕事だろ?」
巡査「あっ」
警部「橋に使った糸だって、回収した後適当に洗って乾かして織物に織り込んでしまえば証拠は隠滅される」
巡査「だ、だけど、そんな頼りない橋の上を、そんなにうまく死体引きずれますかね」
警部「できるさ。ガイドになる紐を一本だけ別に渡しておけばいい」
巡視「ガイド…ですか?」
警部「死体の方には紐を輪っかにしてそのガイドの紐を中に通す。後はロープウェーみたいな感じでツツーッと」
巡査「で、でもでも、いくら滑らすって言ったって、人の力じゃとてもそんなすぐに引っ張りきれませんよ」
警部「じゃあもっと力のある物に引かせれば良い」
巡査「え?」
警部「もう一人の犯人、有田入 鷲雄(あるたいる わしお)の職業はなんだったー?」
巡査「え、それは酪農家…あっ! ですか!?」
警部「そういうこと。鷲雄は牛にその死体を引っ張らせたんだよ」
巡査「つ、つまり絵に描くとこういうことですね」



警部「きみの絵も大概だね」
巡査「そんなことどうでもいいじゃないですか」
警部「とりあえず、そんな感じだね。セッティングができれば、後は牛を激しく追って走らせれば良い」
巡査「死体の激しく転がった跡っていうのはこの時だったんですね」
警部「そう。少しでも綺麗に転がすため、犯人は死体を五色の紐でぐるぐる巻きにした」
巡査「なるほど」
警部「ところが、その準備の時にきっちり結びすぎたんだろうね。彼らにとって計算外のことが起こった」
巡査「計算外、ですか?」
警部「固く結びすぎて解けなかったのか、もしくは死体に紐の跡が残ったため外さない方が賢明と考えたか」
巡査「うーん」
警部「とにかく彼らは死体を縛った紐を解けなくなってしまった。これでは不自然な死体が出来上がってしまう」
巡査「確かに」
警部「そこで。恐らく死体の状態を見て思いついたんだろうね。笹に五色の紐。七夕っぽいな、と」
巡査「あっ。だからこんな七夕の飾り付けを?」
警部「多分ね。紐のカムフラージュの為にこんな見立てをしたんだ」
巡査「な、なるほどぉ…」
警部「じゃあ行こうか、彼らに会いに。今はまだ状況証拠しかないからね。物的証拠を見つけないと」
巡査「きっとどこかからひょっこり見つかりますよ。棚ぼた、なんちゃって」
警部「せっかく綺麗に纏めようとしてるのに最後の最後でぶち壊しだ、お前」



 ※この物語はフィクションです。
  フジテレビ系列の某警部補とは一切関係ありません。
  あと、突貫で考えた話ですので真面目に考えるだけ馬鹿を見るかもしれません。