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ショートコント:ふしぎちゃんと新訳桃太郎
(2008/06/09作)

「れーじくんれーじくん」
「うん? 何?」
「ねぇ、そろそろ眠くなったんじゃない?」
「…いや、こんな真昼間から眠くはならないけど」
「お昼寝とかしたくならない?」
「別に…」
「なんでよ! 眠くなってよ!」
「何なのさ。寝てほしいの?」
「うーんと。寝たくなってほしいけど寝ちゃダメ」
「何その難しい注文。…まぁ、ちょうど調べ物が一区切り付いたところだから少し横になるよ」
「よしきた。れーじくん、子守唄代わりにお話してあげる!」
「それがやりたかったんだね」
「えへへー、こないだ頑張って考えたんだよー」
「お、ふしぎちゃんのオリジナル?」
「うん! さぁれーじくん寝て寝て」
「…えっ、膝?」
「うん、膝枕ー」
「い、いや、いいよ。なんか恥ずかしいし」
「ぐだぐだ言わないの。はいおいでおいでー。来ないと拳の指の根元の骨が突き出た所で眉間殴るよー」
「怖いことをにこやかに言わないでください。…わ、わかったから」
「えへへー。いーこいーこー」
「…もう。早くお話始めて」
「はーい。ではリクエストにお答えして」
「いつの間にかリクエスト扱いにされてる…」
「オホン。では行きます。『桃太郎』」
「ええー!」
「何?」
「いやいや。だって、オリジナルじゃなかったの?」
「中身はオリジナルだよ。昔からある桃太郎のお話ってさ、いろいろと不可解な点があるじゃない?」
「うん、まぁ」
「そこをあたしなりに解釈して、実はこういうことなんじゃないかというお話にしてみたの」
「へぇ。なるほど、それは面白そうかも」
「あーゆーあんだすたん?」
「あんだすたん」
「おーけー! れっつごー!」
「日本の昔話しようとしてるのに英語でレッツゴーなのもどうかと思う。まぁどうでもいいけど」
「では改めまして。『桃太郎』」

 昔々あるところで、おじいさんとおばあさんに育てられた桃太郎という青年が鬼退治に出かけました。

「えー! いきなり鬼退治!?」
「そうだよ」
「えっ、だってほら、桃太郎前半の見せ場というか、こう桃から生まれるところは…」
「慌てないで。ちゃんと後で伏線回収するから」
「あ、そういう構成なんだ。ごめんごめん。続けて」

 桃太郎がおじいさんにもらった『日本一の桃太郎』というのぼりを掲げながら歩いていると、道中で犬・猿・雉に出会いました。
 「桃太郎さん桃太郎さん、お腰につけたきび団子、一つ私にくださいな」
 「動物がしゃべった!」


「…まぁ、普通そういうリアクションになるよね」

 話を聞くと、彼らは鬼による動物実験によって生み出されてしまったミュータントなのだそうです。三年前に鬼ヶ島を逃げ出してから、ずっと復讐の機会を窺っていたと言いました。
 鬼を恨んでいる彼らと利害が一致したため、桃太郎は三匹をお供に連れて鬼ヶ島へ向かいました。


「なんかSFっぽくなってきたぞ」

 「桃太郎さんはなぜ鬼を倒しに行くのですか?」
 道中訊いて来た犬の問いに、桃太郎はこう答えました。
 「――僕はただの人間じゃないんだ。こう見えても僕は三歳なんだよ。
  小さい頃から異常に力持ちで、運動神経も人並み外れていた。
  おかげで村の人たちから怖がられてさ。おじいさんに聞いたら、僕は桃から生まれたらしい。
  村の人たちに認めてもらうため、この力を使って鬼たちを倒しに行こうというわけさ」
 猿は「生まれた時、果汁でベタベタだっただろうな」と言いました。


「なんか深い設定だね。あと空気読め、猿」

 鬼ヶ島に着きました。
 みんなで相談した結果「闇討ちが一番確実」ということになり、夜を待って行動を起こします。真っ暗で視界の悪い中、目に付いた鬼たちをばっさばっさと惨殺していく桃太郎たち。それはもう飛ぶ雉を落とす勢い。


「雉やられてる! 雉!」

 鬼を全滅させた桃太郎は、鬼たちが持っていた財産を全て奪い取り、それをリヤカーに載せて村へ持ち帰りました。鬼を倒しただけでなく財宝まで持ち帰ったとなればきっと村人たちも自分のことを認めてくれるはず。桃太郎はそう信じて疑いませんでした。
 村に帰り着いた桃太郎をおじいさんとおばあさん、そして村人たちが出迎えます。
 「おじいさん、おばあさん、僕はやりました。鬼たちを退治してきました!」
 「よく頑張ったね、桃太郎。もう、お前の役目はこれで終わりじゃよ」
 「…えっ?」
 桃太郎は驚いて自分の胸元を見ました。そこには、おじいさんがいつも芝刈りに使っていた鎌がぶっすりと刺さっていたのです。
 「桃太郎。お前は実によく働いてくれたわい…」
 「お、おじいさ…」


「…え……」

 驚きのあまり何がどうなったかわからないでいる桃太郎の周囲を、鍬や鉈などを構えた村人たちが取り囲みます。桃太郎の身体能力が人並みはずれていることをみんな知っていたため、誰も油断はしていません。桃太郎は為す術なく滅多打ちにされてしまいました。
 「どうして…おじいさん、どうして…」
 「…わしらにはな、本当の息子がおったんじゃよ。桃太郎、という名前のな…」
 「……!!」
 「三年前のことだ。当時この村は鬼に荒らされて困っておった。
  村人会議の結果、村一番の力持ちだった息子が鬼退治に行くことになったのじゃ。
  だが、あいつはもう二度と帰ってくることはなかった…」
 「死ん…だの?」
 「ああ。彼らが…一部始終を目撃しておった」
 おじいさんの視線の先には犬と猿と雉。三匹は、冷たい視線を桃太郎に向けてただ佇んでいました。


「…なんか今度はサスペンスっぽいね」

 瀕死の桃太郎を見下ろして、おじいさんはさらに続けます。
 「彼らはその混乱に乗じて鬼ヶ島を逃げ出してわしの所に来た。しかも彼らはなんと鬼の子供を一人盗み出してきたのじゃ」
 「…まさ…か…!」
 驚愕の表情に包まれた桃太郎に、おじいさんが止めの一言を放ちました。
 「そう。その鬼の子供が…お前じゃよ、桃太郎」


「ええー」

 「嘘だ…そんなの…嘘…だ…」
 言葉とは裏腹に、桃太郎は今までの疑問が全て氷解していくのを感じました。村人に嫌われていた自分。桃から生まれたよりは信憑性がある自分の出生の秘密。都合よく現れたお供の三匹。日本一の旗は鬼の子の桃太郎がここにいるということを三匹に知らせるための目印だったのでしょう。
 「…これは復讐じゃよ」
 意識の薄れ行く桃太郎に、おじいさんは追い討ちをかけます。
 「わしらの可愛い息子を殺した鬼への復讐…!
  鬼の子供によって鬼が滅ぼされるというこの皮肉…
  そして最後に残ったお前を殺すことで、鬼どもを完全に駆逐することが出来る…!」
 狂ったように笑うおじいさんを暗い視界の中で眺めながら、桃太郎は思いました。本当の鬼は、人の心の中に住んでいるのだ、と。
 そして桃太郎の意識はそこで途切れたのでした…


「…めでたしめでたし」
「全然めでたくない。ものすごいバッドエンドじゃん」
「だめかなー」
「いや、二次創作としては面白いと思うけど…少なくとも子供に聞かせる話じゃないよね、これ」
「でもさ、考えさせるお話だと思わない? 教育的でしょ」
「今から寝ようとしてる子供に考えさせてどーすんの」
「あ、そうか」
「うん。話が重いよ」
「なるほど。納得したよ」
「それは良かった」
「実はもう一つ、別のパターンのお話も用意してあるんだ」
「へぇ、どんなの?」

 鬼ヶ島に着いた桃太郎は驚きました。そこにいたのは鬼でもなんでもない、普通の人間だったからです。
 鬼ヶ島に住む人たちは言いました。我々はもともとこの付近一帯に住む原住民だった。しかし後から移民してきた部族(桃太郎が生まれ育った村の人たち)が我々の土地を奪い取ってしまい、我々はこの小さな島に追いやられた。それから数十年、我々は戦争を続けているのだ、と。
 桃太郎はショックを受けました。盲目的に悪い鬼だと思って戦っていた相手が同じ人間だったなんて。村人たちはそれをわかっていて自分に殺戮の役目を押し付けたのか…


「だから、話が重いってば」
「だめかー」