白夜の国スウェーデンを舞台としていることもあって、このシリーズを特徴づける乾いたタッチからはかなりかけ離れ、薄暗い、じめじめとした雰囲気が独特の余韻を残す異色作に仕上がっています。
再訓練を受け、正規の工作員としての活躍がここからはじまります。
15年ぶりに任務に就いていることもあって、結構ピリピリしています。ベスとの離縁も影響しているのでしょう。
任務を慎重に遂行しているため、他の作品に比較して、語り口は説明的で、やや饒舌です。それゆえ、刈り込まれた文章の魅力を欠くものの、思索系スパイたるマット・ヘルム独特の論理の組み立て、嗜好を解する上でうってつけの一冊といえましょう。
また、本書はハードボイルド小説の翻訳で著名な小鷹信光氏が職業翻訳家として初めて手がけた作品でもあり、そうしたことも、やや肩に力の入った感じがする一因となっているように思います。
これらが相乗効果をもたらしているのか、的確に読み解ければ全体に漂う緊張感はとても心地よく、シリーズ屈指の味わいがあります。 |