ギイン!
 アルトフォードの剣に軽々と弾き飛ばされた海理の剣はくるくると宙を舞って地面へと突き刺さる。
 アルトフォードの剣が海理の首元へと向けられて、そのまま止まる。
 「勝負あり、だな?」
 アルトフォードが満足そうに笑うのとは対照的に、
 「…………」
 海理の顔は不満ここに極まれり、といった感じだった。
 アルトフォードを上目で睨み、悔しさ一杯にその場に座り込んだ。
 「か……海理……?」
 「…………」
 「あのー……」
 「悔しい……」
 「…………」
 ぼそり……
 海理はちょっと涙目になってその場でバタバタ暴れ出した。
 「悔しい悔しい悔しいー!!」
 「…………」
 ぎゃーぎゃーと悔しさ一杯に喚き続ける海理の横で、アルトフォードはどう対処していいか分からずにその場に立ちつくした。
 「えーっと、まあ、仕方ないんじゃねえの?今の海理は魔力も身体能力も通常状態なんだからさ……」
 「うー……」
 理解していても納得は出来ない、と唸る姫君。
 さてどうする。

 そう。今の海理は普通の人間の魂なのだ。
 竜の力によって反転や暴走の心配はなくなった。
 全てにおいて円満解決。
 アルトフォードともラブラブでハッピーなバカップルライフを送る……はずだった。
 しかし……ここで大きな誤算が……
 「そんなにむくれるなよー、海理……ちゃん?」
 「むー……」
 海理の負けず嫌いについての考慮を全く頭に入れてなかったのだ。
 
 竜の力、その血の宿命にずっと悩まされてきた海理だが、ここに来てやっと本人も気がついた落とし穴があった。
 竜の力は確かに海理の体を蝕んではいたが、しかしその力は確かに海理を助けてもいたのだ。
 幼い少女がたった一人でこの世界を生き延びる力を与えた。
 身体能力の向上、高い魔力、元々の才能と併せてこの二つがあったからこそ海理は最強といえる戦闘能力を有していた。
 しかしその二つが無くなった今……海理の戦闘能力は三分の一以下に下がっていた。
 アルトフォードの剣に目と、頭はついて行っている。
 しかし体がついて行けない。
 もっと速く動けていた。
 もっと速く切り返せていた。
 体が以前のように上手く動かない。
 以前までは片手で弾き返せていたアルトフォードの剣が、今は両手で受け止めるのが精一杯。
 何と非力な体なのだろう。
 「…………」
 今まで自分がどれだけその力に支えられていたか骨身に浸みて分かった。
 アルトフォードは人間の中ではトップクラスの戦闘能力の持ち主だ。
 海理は今、人形の素体によって肉体を得ているが、その素体には何の付与効果もなく、あくまで身体能力は本来自分が持っている分だけしか引き出せない。
 お陰で今まで余裕で勝利していたアルトフォード相手に……ボロ負け……
 かなりの屈辱……
 頭では理解している。
 仕方のないことだと。
 しかし、理解していてもこの込み上げてくる悔しさは止められない。
 アルトフォードが本当に強い相手だと言うことも、ちゃんと分かっている。
 「でも……やっぱり悔しー!!!」
 「…………」
 駄々っ子モード全開で悔し意を連発する海理相手にアルトフォードは耳を塞いで耐えるしかなかった。
 
 「俺は、嬉しいんだけどな……」
 アルトフォードがぼそりと本音を漏らす。
 「なに?私に勝ってそんなに嬉しい?ふーん、そりゃーよーございましたね!!」
 「いや……そうではなくてだな……」
 やさぐれモードになった海理に多少たじろきながら、なでなでと海理をなだめながら後ろから抱きしめる。
 「男としてはやっぱり女の子は自分の手で守ってやりたいからさ。以前までは守り甲斐なんて微塵もなかったろ?」
 「だって私の方が強かったもん!」
 「う……はい。そのとーりです。だからこそ今は結構嬉しいんだよ。海理が守り甲斐のある女の子になってくれてさ」
 「…………」
 しかしそれでも、俺には及ばなくても並の剣士よりはずっと強いのだが。
 いや、本当に持って生まれた才能かもしれない。
 おちおちしてるとそのうち追いつかれるかも……
 などという危機感は表に出さないまま、海理を正面から抱きしめる。
 「…………」
 海理はまだむすっとしたまま、アルトフォードの腕をふりほどき、びしっと指さす。
 「か……海理?」
 真っ直ぐにアルトフォードを見据えて、
 「そのうちぜーったい負かせしてやるんだから!私もっともっと強くなるもん!!」
 「…………」
 ラブラブとはほど遠い宣戦布告だった。
 アルトフォードは内心ちょっぴり泣きたくなりながら、
 「海理……俺のこと嫌い?」
 「大好き!でもそれとこれとは話が別!」
 「…………」
 「絶対絶対負かしてやるんだから!!」
 「あー……頑張……らなくていいよ、そんなもん……」
 そんなことになったらしばらく立ち直れそうにないし。
 今までは竜の力、ということで割り切っていたが、純粋に実力で打ち負かされた日には俺のプライドが粉々だ……
 「アルトにはこの乙女心が分からないんだぁ!」
 「いや……ソレを乙女心と言われてもだな……」
 海理、乙女心なるものの認識を激しく間違えていると思うぞ?
 誰か海理に乙女心の正しい在り方を教えてやってくれ……

 全てのしがらみから解放され、ラブラブバカップル……の筈が何故か宣戦布告などをされている状況。
 「海理」
 「何?」
 「大好きだ」
 「私も大好き。でも勝つ!」
 「…………」
 この二人に普通のほのぼのラブラブライフは訪れるのでせうか?
 前途は多難なようです。

 今回の教訓 負けず嫌いの海理はかなり手に負えません……