ある日のまるち

 「う……ん……」
 夜中……
 ディートはうなされながら目を覚ました。
 「うぅ……」
 時計を見ると午前四時。
 まだまだ起きるには早い時間だ。
 「何か……違和感が……」
 そう、妙な違和感があって目が覚めたのだ。
 布団の中に……なにか……
 「…………」
 「…………」
 あってはいけないものがあった。
 「あ……う……」
 「こんばんわ。あれ、そろそろおはよーかなぁ……」
 ディートの布団の中からぴょこんと出て来て挨拶をするのは……
 「うわあああああぁぁぁぁーーー!!?」
 瞬間、ベッドから飛び降りて後ずさる。
 「あれ……ディートお兄ちゃん、もう私のこと忘れちゃったの……?」
 哀しそうな目をして布団から出てきたのは……
 「リ……リーア……」
 アルティオの知り合い、ちびっこ魔属のリーアだった。
 「あ、よかった。覚えててくれたんだね!」
 ばふーっとディートに抱きつくリーア。
 「えっと……そーじゃなくて……」
 ここで問題なのはリーアが何でここに……というか何で俺のベッドの中に……
 いつの間にー!!?
 「ディートお兄ちゃんに会いに来たんだよ」
 「そ……そう……それは……どうも……」
 「えへへ」
 無邪気に笑うリーア嬢。
 しかし、
 「リーア。来てくれたのは嬉しいけど。うん、人のベッドに潜り込むのはよくない……」
 よくないので一応注意しておかなければ……と思ったのだが……
 「ディートお兄ちゃんびっくりするだろうと思って♪」
 「…………」
 いたずらっ子の前では無意味だったようだ。
 「びっくり……したよ……」
 しすぎたよぅ……
 「えへへ♪」
 「…………」
 いたずら大成功でにんまり笑うリーア。
 うう……
 素直ないい子だと思ってたのに……
 やっぱりアルティオの知り合いなだけあって一筋縄ではいかない相手のようだ。
 

 「おはよー……ん?」
 アルティオが起きてきて、リーアと目が合った。
 「アルティオ、ひさしぶり」
 「ん、ひさしぶり」
 「…………」
 アルティオは何事もなかったかのように椅子に座る。
 もっとこう、会話がないものかな……
 「お兄ちゃん、石華、まだ飾ってくれてたんだ」
 リーアは窓際に置いてあった石華を見つけて喜んだ。
 「え?ああ、だってせっかくリーアがくれたんだし、枯らせるわけにはいかないだろ?」
 「うん……でも……」
 「?」
 「あんまり育てすぎると噛みつかれちゃうよ?」
 「…………」
 んな人食い花みたいな……
 吸血花ってだけでも十分怖いのに……
 「どういう事?」
 「石華は大きくなると、花びらのところにギザギザが出来て、血の匂いが近づいてくると花びらがバクバク開くようになるんだよー」
 「…………」
 こわっ!!
 そーゆー危ないことはもっと早くに教えて置いて欲しい。
 「っくっくっく……!!」
 そして、向こうで腹を抱えて笑っているアルティオ。
 あいつは最初から知っていたに違いない。
 このまま知らなければ俺が噛みつかれるまで教えることはなかっただろう。
 「わ……悪いけど……このまま枯らせてもいいかな……?」
 リーアからの貰い物を枯らすのは気が引けるが、噛みつかれるのも嫌だった。
 「うん。いーよ」
 しかしリーアはあっさりと了承してくれた。
 「ほっ……」
 
「…………」
 しかし、朝食を並べるとリーアがすごく残念そうな顔をした。
 「リーア……?」
 えーっと……
 もしかして俺、気がつかないうちにリーアの嫌いな物を出してしまったとか……?
 「あのー……リーア……?」
 「…………」
 「えっと……嫌いな物とかあったら……残していいから……」
 「…………」
 しかしリーアの表情は変わらない。
 「違う違う。ディート。リーアはそーゆー事を言いたいんじゃないんだよ」
 「アルティオ?」
 アルティオにはリーアの不満そうな理由が分かっているようだ。
 「リーアはあの日の唐揚げが忘れられないんだよな?」
 「…………」
 こくん、と頷くリーア。
 「あの日の唐揚げって……」
 …………
 もしかしなくてもあの炭素唐揚げですか!!?
 「…………」
 「う……」
 何か……期待に満ちた目で見られてるよぅ……
 「つまり……俺に朝から唐揚げを作れと……?」
 「もっと根本的な問題だと思うぞ?」
 「へ……?」
 根本的……
 炭素唐揚げ……
 炭素……
 つまり……炭素料理を作れってことですか!!?
 この、リーアの前に並べられた丁度いい感じにフワフワ焼き上がっているトーストを、ガリガリの真っ黒トーストに作りかえ、丁度半熟加減がいい感じのハムエッグを、スミスミコゲコゲにしろと……
 そうおっしゃりたいのですか……!!?


 「にがにがー♪」
 そうして、リーアの食事はことごとく炭素まみれとなった。
 ご機嫌に炭素を平らげていくリーア嬢。
 「よかったな、リーア」
 アルティオは焦げていないトーストをかじりながら呑気にそんなことを言う。
 「うん。にがにがー♪」
 「…………」
 喜んでくれるのは嬉しいけど……
 これはこれで食べ物への冒涜だ……
 美味しく食べて欲しいのにぃ……

 「リーア、今日はこれからどうするんだ?」
 食後のコーヒーをすすりながらアルティオが問いかけると、
 「ん、ディートお兄ちゃんとデートする!」
 「へ?」
 リーアは無邪気にデート発言をした。
 「デート……?」
 「いや……?」
 不安そうに見上げてくるリーア。
 その仕草はとても可愛い。
 「嫌じゃないよ。俺でよければ」
 そんな無邪気な少女の期待を裏切れるわけがなかった。
 お兄ちゃんとしてちゃんとえすこーとしなければ!
 ……いや、実際リーアの方がずっと年上なんだけど、この際それは置いておこう。

 「リーア、どうせなら押し倒すぐらいまではいってみな」
 「んー、考えてみる」
 「え……?」
 今、何か邪悪な発言が……
 「ディートのヤツは鈍いからな。とことん攻めなきゃ伝わんねーぞ?」
 「うん、そんなかんじ」
 「…………」
 何かさりげに失礼な発言まで聞こえてくるし……
 「ちょ……ちょっと待って……デートって……もしかしてそーゆーの……?」
 恐る恐る聞いてみるが……
 「は?何言ってんだお前。他にどんなデートがあるんだよ?」
 「ねー」
 「いや……だってリーア、まだ小さいし……」
 嫌な予感がしつつも更に突っ込んで聞いてみる。
 「見た目に騙されんな。リーアはちゃーんと大人のレディーだよなー」
 「ねー♪」
 「…………」
 う……
 何か……
 びみょーに身の危険を感じる。
 「ところでリーア。ディートのどこが気に入ったんだ?」
 真面目にディートに惚れたらしいリーアにそのきっかけなどを聞いてみる。
 「んーっと、やっぱりにがにがなところ!」
 「…………っ」
 ずべちゃっ……
 そ……それわ……
 どこが好き……なんて理由とはかなり違うのでわ……

 「行こう!ディートお兄ちゃん!」
 ディートの手を取って出口へと向かうリーア。
 「えっ……ちょ……待っ……」
 見た目よりもずっと強い力で引っ張られながらディートは戸惑う。
 「リーア、餞別持っていくか?」
 アルティオが怪しげな小瓶をちらつかせる。
 絶対やばげな薬に違いない。
 少なくとも俺にとっては……
 「いる〜……もが!?」
 「さあー!行こうか!!リーア!!」
 小瓶を受け取ろうとしたリーアを強制的にアルティオから遠ざけながらデートへと向かう。
 「がんばれよー♪」
 そして、気楽に手を振るアルティオ。
 果たしてどちらに当てた言葉なのだろう……
 「えへへへ……」
 手を繋ぎながら笑いかけてくるリーア。
 「…………」
 ちょっと前なら無邪気な笑顔だなーと思えたのに、今となってはどんな含みがあるのだろう……と身構えてしまう。
 「行こうか」
 「うん!」
 嫌な予感は心の底に押し込めて、今は楽しむことだけを考えよう。


 その後どうなったのかは……
 想像にお任せするということで……


                               END