「けど、ホントによかったのかなー。あのまま出てきちまって」
「心配してるのか? お前らしくもない」
 アレクシスは馬上でちらりとルイスを見た。見たのは目線でだけで、顔は正面の街道に固定されたままだ。
 ルイスは誰が見ているわけでもないのに、芝居がかった調子でぷぅと頬を膨らませた。
「そりゃ、いつもの俺のセリフだろー」
 アレクシスが小さく笑った。苦笑いだ。ルイスも笑った。やはり苦笑いだった。
「……しっかし、本当に良かったのかねえ。報酬を一人当たり一万ルーナも上乗せして貰っちまって。さすが勇者様だ。やる事が違うね!」
 ルイスがほくほく顔でそう言ってから、急にしんみりとした調子になった。
「けど……大丈夫かね。あのお姫様……」
「お前が他人のことを心配してやるなんて本当に珍しいな。金の亡者のルイスを虜にするなんて、あの王女は意外と大物だ」
 アレクシスは口元を綻ばせて、手綱を握り直すと馬の腹を蹴った。
「──大丈夫なんじゃないのか」
 王女トリニティ。
 ほんの少し力を込めただけで、簡単に折れてしまいそうなほど細い体に萎びた小柄な体。だが瞳には驚くほどの生命力が溢れる──気の強い少女。
 あの夜、彼女なりの精一杯の素直さでアレクシスに礼を述べた彼女。取るに足らないような下々の民にさえ示すことの出来る彼女の誠実さ。衆人の中で侮辱を受けても、それに耐えることの出来る強靭な意志。
 その気にさえなれば、きっと良い王になれる。
 小走りになった馬二頭が併走して街道を行く。そろそろ急がないと、夕暮れまでに次の宿場にたどり着けそうもなかった。
「ホントにまぁ。熱いのかと思えば、妙に冷めていらっしゃる……」
 ルイスは呆れ顔でアレクシスを見つめた。
「それよりさ。今回かなり報酬を貰ったろ? 無事に赤字は消えそうか?」
 ルイスにからかわれて、アレクシスは露骨に顔をしかめた。
「う……まぁ、完済まで後もう少しってところだな」
「──うそっ! マダムにそんなに借金があったのか?」
「ま、まぁな」
「……なかなかダンジョン建設資金は貯まらない?」
「……う……」
 言葉に詰まるアレクシスに向かって、ルイスが冗談めかして言った。
「働けど働けど追いつかない。世の中はかくも厳しい──だな!」
 特大の溜息を一つつき、アレクシスは相槌を打った。
「時々何のために働いているのか分からなくなる時があるぜ……」
「ボヤくなって! あ! 今、姫さんのこと考えてただろう!」
「……違っ!」
「弱音を吐くと、きっとあの姫さんが強気な口調で怒鳴ってくるぜ!」ルイスが高らかに笑った。「お前のその性格直さなきゃ、一生、赤字とは縁が切れないって! 俺が保証人になってやってもいい!」
「何だそれは?」
「雑で、破壊大王だってトコロ! ああ──!」笑いのツボにはまったらしく、ルイスがクスクスと笑いだした。「普段から、発破ばっか仕掛けて、トンネル工事してるから、破壊工作が得意だったのか! 納得だな!」
 アレクシスが苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。むっつりと押し黙って馬を疾駆させる。
「ああ! おい! 待てよ──」
 慌ててルイスも後を追った。

 珍しく空は青く、高く澄んでいた。


   完



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