正直の対価

   強欲なきこりは、腹をたてていました。湖の女神に「私が落としたのは金の斧です」と言っ
てしてしまったばっかりに、金銀の斧をもらえなかっただけでなく自分の斧まで取り上げられて
しまったからでした。結局、生活のために新しい斧を買わねばならず、余計に金がかかってし
まいました。
 それにくらべ、あのバカ正直なきこりはどうでしょう。やわい金や銀の斧では木は切れません
が、売り払えばかなりの額になるでしょう。強欲なきこりは、自分にない幸せを持っている正直
者のきこりの事が憎くて仕方ありませんでした。
 しばらく考えた強欲なきこりは村のおしゃべり好きな子供に合いにいきました。

 それからしばらくして、ある噂が湖の近くの村にまでも広がり始めました。正直者の持ってい
る金と銀の斧は、盗まれた物だというのです。
 その噂はどんどん広がり、とうとう町の役人の耳にも入りました。そして正直者のきこりは取
り調べを受ける事になりました。
 それを知った村人たちは、みな心配をしました。『湖の女神にもらった』なんて荒唐無稽(こう
とうむけい)すぎて信じてもらえるとは思えなかったからです。
 ある金持ちは「あの斧は私が贈ったことにしておくから、口裏をあわせなさい」と言ってくれま
した。しかし、正直なキコリはうんと言いませんでした。
「それでは嘘をつくことになってしまいます。人は正直でなければならない。それが、私が女神
様から教わったことなのですから。女神様も、きっと私のために本当の事をお話してくださるに
違いありません」

 取り調べに、正直なきこりが言った事を、役人は鼻で笑いました。
「まさか、そんな事があるわけがない」
「では、あの湖に一緒についてきてください。きっと、女神が私の無実を証明してくれるでしょう」
 しかし、出てこないのです。正直なきこりが、湖の水面にどれだけ呼びかけても、女神は姿を
現してくれないのです。

女神は、噂を流したのが強欲なきこりだと知っていました。きっと、自分がもう片方の人間にだ
け褒美を与えたのが気に入らなかったに違いありません。彼女は、怒るより先に人間の嫉妬
深さ、愚かさにもうすっかり嫌気がさしてしまいました。それに、証言するとなるとあれこれと聞
かれるに違いありません。まるで自分が汚らわしい罪人になったようで気にいりませんし、面倒
です。第一、正直者のきこりにも、さほど思い入れはありませんでした。人間が野良猫に餌を
やるように、斧を与えたのも、ちょっとした気まぐれにすぎなかったのです。
 悲痛な正直者の呼びかけのうるささに顔をしかめ、女神は湖深くに潜っていきました。そろそ
ろ神々の国に帰ろうと思いながら。
「女神様、出てきてください、女神様……」
「さあ、もういいだろう。お前にあの斧を買える収入も遺産もない。盗んだに違いないんだ。こん
なくだらない言い訳をして!」
 泣き叫ぶ正直者のきこりは、役人に縄をかけられ連れて行かれました。
強欲なきこりが、少し離れたところからそれをみてニヤニヤしていました。
 
 金、銀のもとの持ち主は分からなかったものの、きこりが泥棒をしたことは間違いないとさ
れ、正直者のきこりは首くくりの刑に処されました。持ち主のない金と銀の斧は国庫に納めら
れ、犯罪者を逮捕した役人と、こっそりと「盗品らしき品を持っている者がいる」と告げ口をした
強欲なきこりは、ご褒美にそこそこのお金をもらったということです。

 前へ


トップへ
トップへ
戻る
戻る