地図

    果てしなく続く砂漠を、盗賊ノアルはラクダにまたがり進んでいた。手には、一枚の地図
を持っている。
 それは、とある貿易商の家から盗み出した物だった。ある草原のど真中に×印が書いてあ
る。絵に描いたような宝の地図だった。粗末な紙に、茶色のインクで走り描きしてある。
 普通ならそんなうさんくさい物は相手にしないのだが、隠し部屋の金庫の中に大事にしまいこ
まれていたとなれば話は別だ。そこまで厳重に保管されていたなら、きっと本物に違いない。そ
う思ってから、ノアルの人生は一変した。
 現代の地図に照らし合わせても、宝の地図にある草原はなかった。大陸の形さえも、細かい
所があちこち変わっている。きっと長い時間で地形が変わってしまったのだろう。盗賊は古代
の地形を学び、例の地図に該当しているだろう場所を探し出した。そこまで安全に行く為のル
ート確認、必要な食糧と水の調達。仲間をつくると分け前が減るため、それらをすべて一人で
やってのけた。
 ノアルの計算だと、宝はこの砂漠にあるはずだった。だが、地図には大ざっぱな場所しか記
されていない。盗賊はもうまる五日もこの辺りをさ迷い歩いていた。
 乾く喉と目の痛みに耐えながら、盗賊は一面布を広げたような砂の海を見渡した。やはり何
も目印になる物はない。長い間、太陽になでられているような暑さの中を動き回っていたせい
でひどい吐き気がした。ゆらゆらと目の前の景色が歪む。もうノアルにはそれが陽炎のせいな
のか、目まいのせいなのか、分からなくなっていた。
 その時、視界の端に砂に半ば埋もれた黒く四角い物が映った。
「宝箱だ!」
 ノアルはラクダから飛び降りた。もし宝が何度も分けて運ばなければならないほど大量なら、
場所を知っているのは自分だけの方がいい。地図をビリビリに破きながら、宝箱に突進する。
 何度も転びながら箱にかけより、荒れた指で砂をかきわける。爪の先に硬い物が当たった。
 だが、掘り出されたのは、赤味がかったただの岩だった。
「そんな……」
 盗賊はゆっくりと膝をつくと、そのまま倒れこんだ。そして、もう二度と起き上がることはなかっ
た。

 主人のいなくなったラクダは、テクテクともと来た道を歩き始めた。野生の勘で、オアシスの
周りの集落へとたどりつく。
「おや、お前。主人はどうしたんだい?」
 たまたま民芸品を仕入れにきていた商人が、ラクダを見つけてその首をぽんぽんとなでた。
「おや、これはすごい!」
 荷物をくくりつけるロープに引っかかった地図の切れ端に気づくと、商人は目の色を変えた。
「これは高名な画家、ヴァロートが描いた作品だ。どこにもない、空想の国の宝の地図。もし破
れていなかったら、一千万はするだろう。しかし、なんでこんな所に? 誰かが大切にしまいこ
んでいるのだと思ったのだが……」


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