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二子玉川ライズ住民訴訟控訴審準備書面(1)

平成22年(行コ)第208号  公金支出差止等控訴事件
控訴人   X1  外91名
被控訴人  世田谷区長

準備書面(1)
                   2011年4月22日
東京高等裁判所第24民事部イS係御中

控訴人ら代理人  弁護士  淵脇みどり
同         弁護士  原希世巳
同         弁護士  小林 容子
同         弁護士  吉田悌一郎
同         弁護士  牧戸 美佳

  被控訴人の答弁書、及び平成23年2月24日付準備書面(1)に以下の通り反論する。

第1 争点1  地方自治法242条2項但し書きについて
1 争点1は、そもそも違法不当な公金支出の監査請求について、「1年を経過したときは、これをすることができない。ただし正当な理由があるときは、この限りでない。」とする地方自治法242条2項但書きの解釈に関する重要な争点である。
(1)最高裁判決の解釈の誤り  本質は正当な理由の解釈を広げる判断
 本件について、原審判決、及び被控訴人らは、請求を却下する理由として最高 裁平成14年9月12日第1小法廷判決を引用しているが、その判例の解釈に誤りがある。
同判例の解釈によれば、本件において、「原告X2が情報公開請求をした平成18年2月ころには、世田谷区の一般住民において、相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて本件監査請求をするに足りる程度にその対象とする財務会計行為の存在及び内容を知ることができたと言うべきである。」
と判断することは誤りである。
 この点について、被控訴人が引用する最高裁平成14年9月12日第1小法廷判決の趣旨は、この但し書きの正当理由を、立法担当者の解説よりも、昭和63年4月22日の最高裁判例よりも、さらに広く認めたことに意義があるのである。(判例時報 1807号 平成15年3月11日号  64頁〜65頁)
 すなわち、昭和63年判決の枠組に関し、従来、「当該行為が、隠蔽、仮装等により、法が予定している以上に客観的に知り難くされることまでは要するか、住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができるか否かで見るべきか」見解が分かれていた点については、後者とした。さらに、知ることができた対象が「財務会計行為の存在だけで良いのか、その内容も含まれるのか。」とについても、見解が分かれていが、これについても後者とした。
 地方自治法242条2項本文が、法的安定性の確保の観点から監査請求期間を定めたものであるが、財務会計行為がことさらに隠蔽されている場合だけでなく、「一般の住民が相当の注意力をもって調査しても、財務会計行為の存在やその内容を知り得ない場合」にまで広げて解釈することによって、法的安定性の確保を押し通すことが相当でないとしたのである。従って、ここには、住民自治における直接参政権行使としての監査請求の要請を、同条本文の法的安定性の確保よりも、優先させるべきであると言う判例の変遷の方向性がはっきりと見て取れるのである。
 実際に、行政の財務会計行為の詳細な内容を、一般の住民が知りうることは、極めて制限されることが多い。通常は決算審議で翌年度になって一定の項目単位の合計額で示されることで、公になるが、それでも、個別の財務会計行為の日時までは不明で、実際の支出行為時からは、相当時間を経てから明らかになることが多い。そのような実態のもとで、但し書きを厳格に運用することは、実質的に住民の監査請求の機会を著しく奪うことになり、許されない。
(2) 当該最高裁判所の事例と本件事案との相違点
 当該最高裁判例の事案は、具体的には、「平成元年12月12日に毎日新聞、朝日新聞が、平成元年12月13日に京都新聞が、いずれも市議会普通決算特別委員会において、昭和63年度中(平成元年3月31日まで)に報償費名目で市民政局同和対策室長あてに、3回に分けてされた計340万円の各支出は領収証等がなく使途を明らかにしないまま行われた不明朗な支出である旨を指摘した報道をなされたこと」をもって「市の一般住民において、相当の注意力をもって調査すれば、客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件各財務会計行為の存在及び内容を知ることができたと言うべきである。」と判断している。実際にこの件について住民が監査請求がしたのは、平成2年3月7日である。
 
 最高裁判例のケースは、合計3社の新聞報道により、具体的な「支出名目、回数、金額、領収証、使途不明などの内容」が広く「一般住民」が知りうる状態になっている。
 ところが、本件で、原審が「一般住民が知り得た」と認定した原告X2の情報開示請求時の状況は、上記の事例とは全く異なる。
 原審が「一般市民が知りうる」認定した時期は、未だ年度内の平成18年2月である。議会に決算報告すら出されていない。住民の代表者である議員でする債務会計行為の存在および内容を知らない時期である。
 原告X2がたまたま自分の興味で、事業の全体像を知るために、「公金の支出額」についてだけ情報開示請求をした。従来から、原告X2は本件再開発事業を担当する、当時の世田谷区生活拠点整備担当部拠点整備第二課課長渡辺正男の元を訪れ、事業の進行状況や問題点などを確認したり、意見交換をしたりしていたので、渡辺課長にそのことを告げた。すると、渡辺課長は、正式な回答書ではなく、事実上2月までの予算執行額の総額をメモして原告X2に交付したのである。そのメモが甲50号証である。
 原告X2は当時は監査請求をすることを目的としておらず、具体的な日付や金額、支出項目の明細、領収証等が添附されているかなどの「各財務会計行為の内容」の開示までは求めていない。

(3) 平成18年12月2日に支出された事実の判明時期
 本件では、控訴人らが平成18年12月10日に監査請求した公金支出行為のうち、一部の行為が平成17年12月2日に行われていたとされ、却下されたが、監査請求日がわずか1年より8日経過しただけである。しかも、その支出行為が「平成17年12月2日に支出された」という具体的日時は、住民訴訟以前には全く開示されなかった。
 原告らの監査請求に対して世田谷区監査委員が作成した甲55号証(「世田谷区職員措置請求監査結果」)には、原告の監査の対象となる公金支出行為の、日時、内容、金額の明細を明らかにする具体的な開示もなく、「一部の行為は1年以上前の行為であるから監査の対象にならない。」との指摘すらない。
 
 本件住民訴訟を提訴した手続きにおいても、被控訴人の答弁書添附の参考資料では支出日が「平成17年12月13日支出」と記載されており、その後裁判所の釈明を経て後日、「平成17年12月2日」と訂正された経過がある。
 
 このように、個別の財務会計行為の具体的日時、金額支出内容の明細が、ほとんど明らかにされないままに、住民訴訟を提訴せざるを得なかった実情を詳細にみるならば、「当該普通地方公共団体の一般の住民が相当の注意力を持って調査すれば、客観的に見て監査請求するに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができた」とは言えない。
(4) 結論  以上の通りであるから、平成18年2月の甲50号証作成時期について、「一般の住民が財務会計行為の内容を知り得た時期である。」と、前記最高裁判例を適用して、本件請求を「正当な理由があると言えない」とした原審判決は明らかに誤りである。
2 控訴審の審理進行
 この点は、法令の解釈、最高裁判所判例解釈に関わる判断であり、原審の上告、上告受理申立事由に相当する重要な判断であるから、控訴人らが申請した原告X2の原告本人尋問申請を採用し、平成18年2月の甲50号証作成時の経緯、及び当該時点において一般の住民が何を知り得たかにつき、事実経過を慎重に審理した上で、原判決を取り消すべきである。

第2 争点3 財務会計行為に先行する原因行為の違法性のうち補助金支出負担行為について
1 控訴人らは,原判決が世田谷区長らが東京都知事の先行行為を尊重すべき義務があり,きわめて重大な瑕疵がある場合以外は,先行行為を前提としてなされた財務会計行為は違法とはならないとしたことに対し,最高裁平成4年12月15日判決(一日校長事件)を正しく解釈すれば,先行行為を行う権限が財務会計行為者とは別の主体に属している場合において常にこれを尊重しなくてはならないなどとは考えられないこと,判例上は先行行為が財務会計行為者に対して法的義務を課すような場合においても,先行行為が無効である場合には,それに従った財務会計行為をしてはならないとされていることなどを明らかにしてこれを批判した(控訴理由書9〜15頁)。
 そして本件においては,世田谷区補助金交付規則第3条,同6条,東京都世田谷区市街地再開発事業補助金交付要綱第7条などを根拠に,世田谷区長らは補助金支出の法令・予算への適合性や,目的適合性について審査すべき義務,すなわち「違法な事業計画等に補助金を交付してはならない財務会計法規上の義務が課せられている」と主張した(同16頁)。
2 これに対して被控訴人は,一日校長事件最高裁判決は内部組織の権限行使に伴う財務会計行為についての判示であり,別個独立の公共団体である東京都と世田谷区のような場合に詳細な検討を求めるものではないと主張している(答弁書4頁)。しかし別個の主体がなした先行行為であってもそれが違法無効な場合にはそれを前提とした財務会計行為をなすべきではないことは変わりはなく(この点八ッ場ダム費用支出差し止め請求事件判決が明らかにしたとおりである),後述するような基準により先行行為の法令適合性などを審査しなくてはならないのであって,この点原判決が誤っていることは明らかである。
3 また,被控訴人は地方自治法232条の2が,「補助金交付は公益上の必要がある場合においてなされる」(条文上正確には「することができる」というのが文言であるが)のであるから,上記規則や要綱の審査もそのような観点からなされれば足りると反論している。
 しかし地方自治法232条の2はその文言からしても,補助金交付のための必要条件として公益性の要件を定めるものであり,上記規則等はその公益性判断の基準を具体的に定めるものである。すなわち上記規則等は,財務会計行為者には補助金交付事業の法令適合性,事業の目的,内容の適正などを調査する義務があり,これらが認められない場合は地方自治法232条の2の要件を欠くものとして,補助金の交付決定をしてはならないことを定めているのである。
財務会計行為者は自らの権限に基づき本件事業の法令適合性などを検討して,補助金の公益性の要件を審査するのであり,知事と同等の立場で審査するものではないのは当然である。しかし法令に違反し,あるいは不適正な目的,内容の事業に対しては補助金を交付してはならないことは明らかであり,その点についての審査を怠ることはできないのである。

第3  争点4  公園予定地変更の違法性について
1 (1)ア について
 被控訴人の反論は乙1号証(環境影響評価書)で「植栽樹群」と記載されているをことさらに原審判決の言う「樹林地や水辺地などで構成された自然的環境」とは区別して論じ、本件再開発事業地には自然的環境が維持されていなかったとの原判決を容認している。
 しかし、このような反論は、言葉の定義づけに拘泥する屁理屈である。植栽樹群も、住民にとって貴重な自然的空間であり、憩いの場所である。この土地は、周辺住民や遠方からの来訪者が自由に出入りして、森林浴や花々を楽しむ交流の場であった。その土地に一歩踏みこめば、外気とは遮断されたしめったみずみずしいかぐわしい風が吹き抜け、周辺の国分寺崖線や多摩川の河原と一体となって豊かな自然的環境の中心であった。
 乙1号証の現存植生図にも、植栽樹群も他の樹木、草木の分類の1つにすぎず、全体として自然的環境が維持されていることがよくわかる。その実態は明らかであるる
2(1)イについて
 原審および、被控訴人の反論は、都市計画の「計画」たる本質に違反し、「都市」発展の方向性について、「無計画、無秩序」の「どっちでもあり」を容認するものである。行政の長である世田谷区長が、かような反論をすること自体、都市計画行政を担う資格がない。
 民間の開発事業者、不動産、建築業者らは本来経済行為によって利潤追求の実現を図ろうとする、本質的欲求を有しているのであるから、放置すれば、乱開発により、住環境は侵害される。都市計画の制度趣旨を実現するためには、行政が計画的にその地域性を見極め、都市計画法に定めた手続きによって、民間の開発欲求を適正に規制する必要があるのである。 
3(2) 具体的計画開示の必要性
 既に決定した都市計画を変更するには、変更の必要性につき、合理性妥当性がなければならない。特に、開発が抑制される「風致地区、都市計画公園」から超高層、容積ビルの「再開発」という、真逆のまちづくりを行うのであるから、なおさらである。被控訴人は「具体的な再開発計画が住民の閲覧等に供されていたか否かは、再開発計画の存在によって都市計画公園の移動の必要性が基礎づけられていたかの点とは無関係である。」と述べているが、これは全く住民を無視した暴論である。
 特にこの場所は、「都市計画公園」として造成されてはいなかったものの、遊園地跡地として、古くからの住民や、遠方からの来訪者にとっての憩いや交流の空間として自由な出入りのできる「公共性」をもったスペースであった。これは、「都市計画公園」としての都市計画決定が、地域における当該土地の果たす役割、実態と一致していた、極めて適正、合理的な都市計画であった。
 このような、すでに実質的な「公園」的スペースを、「再開発の必要」と言うだけで、「再開発のために」位置変更するについては、開発側の計画が具体化しているというだけでは不十分である。何故、「1街区だけの駅前だけのスペースでは再開発ができないのか、」「都市計画公園をこの土地にのこしたままでの開発の可能性はないのか」など、複数の具体案を吟味し、公園の移転の必要性を吟味する作業は、「公共の福祉を実現すべき」行政こそが率先して行うべきである。
4(3) 公園用地の一部譲渡約束に公共性がないことについて。
 被控訴人の反論は「都市計画の目的とは直接関係性が認められず、主張自体失当」というものである。「関係性がない。」との主張こそ、失当である。
 都市計画変更の必要性の本質が「世田谷区と東急グループの官民癒着構造にあり、真の合理的な必要性がない」というのが、控訴人らの主張である。これに対し、「一部の公園用地の世田谷区への譲渡約束に公共性がある。」というのは、世田谷区長の言い逃れ、弁明である。この弁明が、公園予定地の変更も、莫大な容積率緩和の正当性も、全てこの弁明で正当化しようとしているのである。
 控訴人の主張はまさに、このような財産的提供によって、都市計画を恣意的に変更することを「弁明」に使おうとすることの本質が、いかにまやかしか、その本質にいかなる利潤の独占、集中の実態が隠されているのかを数字上明らかにしたまでのことである。
 みずから正当性の根拠として唯一のよりどころとした弁明の偽りを素直に受け止めるべきである。司法もこの点を厳正に断ずべきである。
 被控訴人は、「利益が東急グループに独占集中したことは、東急グループが所有する土地の85%であったことの結果である」として、意図的、悪意的でないかのようないい方をするが、都市計画公園予定地の変更によって、2、3街区のを再開発事業地に含めたことによって、85%を東急グループが所有する土地での再開発事業が実現したのである。そのうえに、被控訴人みずから、あわてて「規定はない」 などと逃げを打つように、東急グループが自ら参加組合委員となることによって、この再開発事業による開発利益は2重、3重の構造で「東急グループ」に「独占、集中」することになったのである。数字だけではない。東急は実質的に一番ほしかった駅前の1街区部分を合法的に地上げし、少数地権者の生活や営業を擬制にして、この空間を全て商業施設にすることに成功した。地権者達を追い出す権利変換手法のための別のビルやマンションをつくるために、2街区や3街区も再開発事業地に組み入れることが必要だったのである。これこそ、都市計画公園移転の真の必要性である。そして、公共の福祉実現のためにあってはならない乱開発目的であり、このような違法目的の必要性によって、行われた平成元年の都市計画公園の位置変更の都市計画決定および、これを前提とする本件再開発事業に関する全ての都市計画決定及び、事業認可等は全て違法である。
5(4)緑地面積の減少の違法性について
  被控訴人らは、乙10号証33頁の表をもって、多摩川緑地は3.5ha減少するが、多摩川沿い地域全体の緑地面積は14.41ha増加するから違法性はないと、強弁する。しかし、同頁表2−1をみれば明らかなように、増加するとする緑地は既にある社寺等民間施設を10個所寄せ集めて緑地指定すると言うだけであり、違法性をごまかすつじつま合わせにすぎないことは一目瞭然である。 多摩川緑地として指定されていた地域に公園を移転することにより、多摩川緑地は3.5ha減少した。その違法性は寺社等民間施設内に既にある緑地部分の寄せ集めでは回復し得ない。

第4  争点5  総論について
1 (1)  都市計画法13条1項について総合的に判断すべきであるとの主張について、被控訴人は「独自の主張」と切り捨てる。しかしながら、判断を総合的になすべきことは余りにも当たり前のことである。
 むしろ、そもそも、原判決が、「違法とまでは言えない」とする評価自体が誤りである。原判決は、本件再開発事業が、東京都の公害防止計画の趣旨違反があることや環境基本計画の「地域別配慮の指針」に沿わないということを指摘しながらも、これを「違法」と断定せずに、「違法とまで言えない」と、矛盾した表現で免責している。あたかも、「違法」と「違法とまで言えない」の間に量的濃淡があるかのごとき表現で「違法」判断を避けているのである。
 原審は、司法の責務を明らかに放棄するものであり、許し難い。計画趣旨違反、基本方針違反が認められるとすれば、直ちに違法なのである。それが法律の趣旨である。 それ故に、仮に原審のような、「計画違反」や「方針違反」はあることを「違法」と言わないと逃げたとしても、それがこのように多項目にわたってある場合には、もはや逃げるべきではなく「総合的にみれば、明確に違法 である。」と断ずべきであるというのが、控訴人の主張である。 極めて明快な結論である。

2 争点5 都市計画法13条1項 柱書きについて
(1)被告準備書面第3項(2)アについて (二橋の交通流対策)
ア 被控訴人は,控訴人らが東京地域公害防止計画(甲95)2頁を引用して,本件再開発計画においては,大気汚染の悪化を防止する施策の一つとして交通流対策,とりわけ本地域の周辺で,たびたびボトルネックとなって渋滞を生ずる原因となっている二子橋の交通流対策を何らとらずに放置したままで本件地域に大量の自動車交通を流入させることは,公害防止計画等に違反すると主張したのに対し,二子橋は世田谷区と川崎市にまたがるところに位置するから,東京地域公害防止計画の適用がないと主張する(被控訴人準備書面8頁)。しかし,被控訴人の主張は全くの詭弁である。
 東京地域公害防止計画は,第2節地域の範囲で定める東京地域公害防止計画策定地域(甲95,4頁)において,自然環境の保全や地球環境の保全に努め,公害を未然に防止し,地域住民の健康を保護するとともに生活環境を保全する計画を策定するというものである。世田谷区に位置する本件地域は当然東京地域公害防止計画策定地域に含まれるのであるから,本件地域に生ずるおそれのある公害を未然に防止し,本件地域の住民の健康や生活環境を守るために必要な施策は実施されなければならず,二子橋のボトルネックが本件地域に生ずるおそれのある大気汚染の一因となっているのであるから,二子橋の交通流対策をとらなければならないことは明らかである。
イ また,被告訴人は,本件再開発計画のような人口増加が見込まれる個々のプロジェクトに対してまで公害防止対策が求められてるわけではないと主張する(被控訴人準備書面9頁)。
  東京地域公害防止計画は,公害防止のための施策を総合的進めていくうえで基本となる計画であるが,同様の,公害を未然に防止し地域住民の健康や自然な環境を守ろうという目的で定められた他の諸計画,とりわけ,東京都環境基本条例9条に基づいて環境保全に関する目標施策の方向や配慮の指針等を定めた東京都環境基本計画(甲94)と整合,連動して実施されるものとして定められている(甲95,266頁)。
 この点,東京都環境基本計画は,東京地域公害防止計画と同様に大気環境を保全する施策として交通流対策を位置づけている(甲94,51頁,53頁)うえ,「環境面からの配慮は,あらゆる計画や事業に不可欠な要素であることから,今後,都が立案するすべての計画は,環境面からの配慮においてこの計画を基本として整合が図られることになる。」(甲94,30頁)としている。そして,再開発計画は東京都を代表する都知事が認可権者として再開発計画の諾否に深く関わっているのであるから,その認可にあたっては東京地域公害防止計画や東京都環境基本計画と整合性を図らなければいけないことは当然である。すなわち,本件地域において,既に二子橋のボトルネックという具体的な問題が生じている以上,これを放置することは許されないのである。
ウ さらに,被控訴人は,東京地域公害防止計画において,二子橋の交通流対策が明示的に定められてはいないと繰り返す(被控訴人準備書面9頁)が,基本的な施策の方向や定める東京地域公害防止計画において,個々の具体的な施策を網羅的に規定することは,不可能であるだけではなく,時の経済状況や時代の変化によって発生するおそれのある公害の内容や環境問題は一定ではないのであるから合理性にも欠ける。東京地域公害防止計画に挙げられている施策は,例示的なものであって,東京地域公害防止計画に明示的な記載がない対策は実施しなくともよいなどとの解釈は,東京地域公害防止計画の趣旨や目的を正しく理解しないものである。

(2)準備書面第3項(3)イについて  (多摩川沿いの景観軸の形成))
ア 被控訴人は,東京都環境基本計画が本件地域を含む「新山の手エリア」に「指針」として定める事項(甲94,90頁)を,新山の手エリアに含まれる8区全域に一律に適用を予定しているとは言い難いなどと主張する。確かに,「I多摩川沿いの景観軸の形成に努める。」という指針が,多摩川から遠く離れた練馬区や板橋区などにも適用されるものではない。反対に,この指針は,多摩川の流域に位置する大田区や本件地域を含む世田谷区に適用されるものであることは明らかである。
イ さらに被控訴人は,「本件再開発地区計画は,『水と緑の豊かな自然環境と調和した安全で快適な,居住機能を含む複合市街地の創出を図ること』を目標としている」と標榜する。しかし,多摩川の水辺に豊かな自然環境を有し,多摩川から国分寺崖線や富士山をはじめとする山並みの眺望を,地域住民やさらには本件地域に自然との触れ合いや美しい眺望などを楽しむために本件地域を訪れていた多くの人々から奪うこととなる本件再開発計画は,「I多摩川沿いの景観軸の形成に努める。」という指針に明確に違反する。
  本件再開発計画は,これまで風致地区に指定され,建築制限等住民の権利を規制することによって自然環境や景観を保全してきた地域に,超高層建築を乱立させるものであって,到底「水と緑の豊かな自然環境と調和し」ているなどとは言い得ない。さらに言えば,本件再開発計画は,本件地域の自然や景観を破壊しながら,多摩川の水辺や国分寺崖線の眺望を本件再開発ビルに入居した居住者だけが享受しようというものである。このような計画が本件地域の自然環境と調和しているなどと言うのは,全くの独りよがりにすぎない。

(3)被告準備書面第3項(4)ウについて (環境影響評価について)
ア 大気汚染
  被控訴人は,有害大気汚染物質モニタリング指針が自動車からの大気汚染物質の排出をモニタリングするにあたっては,交差点とそれ以外の沿道の両方で測定を行うことが望ましい(甲155,2頁)としていることを根拠として,交差点とそれ以外の沿道の両方で調査をしなければならないというわけではないと主張する。
 しかし,当該事業によって周辺環境にどのような負荷が生ずるのかを調査し,周辺の環境の保全と住民の健康を守るべく,公害を未然に防止しようという環境影響評価の目的からすれば,調査対象地域で最も強い影響を受けるおそれのある地点も選定して調査しなければ,その目的を達し得ない。したがって,本件再開発事業に先立って実施された環境影響評価は十分な調査をしたとは言えず,不適切である。
イ 圧迫感
 被控訴人は,本件再開発事業に先立って実施された環境影響評価において圧迫感を測定した地点は適切であったと強弁する。しかし,被控訴人のかかる主張は,圧迫感の予測をする手法として仰角による方法が適切であることを前提としたものであるから,そのような主張を容れることはできない。
 被控訴人は,相変わらず,東京都環境影響評価指針が圧迫感の予測手法として仰角よる方法も選択肢として掲げているなどと主張し(被控訴人準備書面12頁),東京都環境影響評価指針解説(甲24,148〜149頁)を引用する。しかしこれは,東京都環境影響評価指針解説を正しく理解しないものである。
 東京都環境影響評価指針によれば,圧迫感については,@建物が建つ前の圧迫感の現況調査と,A建物が建った後の圧迫感の予測が必要である。そして,建物が建つ前の圧迫感の現況調査の方法は,現地調査及び及び形態率を算定する方法による,とされている。これに対し,建物が建った後の圧迫感の予測手法は,「形態率図表による形態率の算定,天空図の作成等の手法による」として,仰角による方法は除外されている(甲24,149頁)。
 確かに,被控訴人が引用する部分(148頁)には,(4)予測方法として7つの手法を掲げるなかの一つとしてB最大仰角図の作成も挙げている。しかし,これは,圧迫感以外の,@主要な景観構成要素の改変の程度及びその改変による地域景観の特性の変化の程度,A代表的な眺望地点の改変の程度及びその地点からの眺望の変化の程度,B貴重な景勝地の消滅の有無,C圧迫感の変化の程度,という4つの予測事項の手法をまとめて網羅的に記載したものである。7つの手法からどれでも任意に選択してよいと言うものではなく,「予測は,対象事業の種類及び規模並びに地域景観の特性等を考慮して,次に掲げる予測手法のうちから適切なものを選択し,又は組み合わせる。」としているのである。そのうえで,前述のように,「圧迫感の変化や程度についての予測は,形態率図表による形態率の算定,天空図の作成等の手法による。」としているのであるから,仰角による方法を圧迫感の予測方法として採用していないことは明らかである。被控訴人の主張には理由がない。 

3 争点5(2)13条1項7号違反について
ア 原審は、平成元年の都市計画公園の位置変更による再開発企業地の巨大化、昭和58年の再開発基本構想に反する超高層、容積化という「都市計画」の本旨に反する激変を認定しながら、これを「昭和58年3月から昭和62年3月の間におきた、その後の諸情勢の変化」によるものと正当化する。
 その後というこの間わずか4年である。この4年間に何が合ったのかを検証しなければならない。この時期の上位計画である、世田谷区基本計画(甲66号)は昭和54年4月に決定されて、その後、10年間(昭和64年)までの10カ年計画である。昭和58年も昭和62年も、ともにこの基本計画の想定する10年の範囲内である。 その4年間に作成されたのは、まさに世田谷区と、東急グループとの協定書にほかならない。甲40号証ではこの時期に作成された世田谷区と東急グループの@〜Dの五つの協定、覚書と、E都市計画公園の位置変更を示す都市計画公園区域図が開示されている。
@  昭和61年11月15日 
   作成者 世田谷区助役佐野公也  東急電鉄専務取締役  蝦名忠武
「二子玉川東地区及び三軒茶屋太子堂地区の再開発事業の遂行にあたっては、地域社会の発展と向上を優先課題とし、行政・企業双方それぞれの責務と能力の範囲で本事業の完成まで一致協力最大限の努力をしていくことを約す。」としている。
以下A文書 @と同日  B文書昭和62年10月31日 C文書Bと同日 D文書 昭和63年7月29日まで綿密な協定書が結ばれており、世田谷区の広域生活拠点とされた「下北沢、三軒茶屋、二子玉川」のうち三軒茶屋と二子玉川の2個所が東急グループとの癒着で開発されたことが合わせて明らかになる。
  本件再開発事業は、当初から行政と企業の2者が「一致」して遂行したのである。本来、住民の福祉を考え、住民の利益と企業の開発意欲が衝突する場合には、住民の立場に立って、その権利を擁護するために、企業を規制する立場に立つべき行政の責務を完全に放棄している。この協定はそもそも世田谷区が二子玉川を「広域生活拠点」と定めたのも、東急グループの再開発のためにする定めであったことが明らかになる。
イ 「その後の情勢の変化」の実態と本件再開発事業の違法性の根元
  この官民の不当な癒着こそが、原判決が計画違反を正当化する事情として論ずる「その後の諸情勢の変化」の実態である。このような認定は、都市計画法の「計画性」の本質を骨抜きにし、これを司法が容認することであり、到底許されない。
 本件再開発事業の違法性、の本質、官民癒着による恣意的な都市計画制度のねじ曲げ、これを「諸情勢の変化」などというおよそ都市計画の理念に反する不合理な事情で正当化する原判決の不当性の本質である。
 控訴審においては、この事案の本質を性格に見据えて必要な審理を十分にし直すことを求める。
 この問題は 以下イ、ウの論点も全て共通する議論である。世田谷区は、本件再開発事業の必要性について、専ら世田谷区の「広域生活拠点」であるとの主張を繰り返すのみであるが、その「広域生活拠点」3個所のうち2個所が東急グループとの深い癒着文書作成経緯と時期的に重なっていることから、世田谷区のまちづくりを専ら、民間企業である東急の開発要求に委ねて丸投げしてしまい、多額の補助金を支出しながら、その開発内容に何らの適正な規制をしなかったことが一目瞭然である。
4  争点5(4) 都市計画法7条の8の2違反(再開発地区計画)
(1) 再開発地区経過の目的規定に対する違反
ア 控訴理由書において,控訴人らは本件再開発事業が,再開発地区計画の目的を土地の「合理的かつ健全な高度利用」と「都市機能の更新」をはかることと定める都市再開発法7条の8の2第1項に違反するものと主張した。
 具体的には,本件再開発事業の次のような顕著な特徴点からして,公共的利益への貢献は極めて乏しく,むしろ公共的な要請とは逆行するものとなっていることを詳細に述べた。その骨格は以下の通りである。
 (特徴点1)超高層住宅を中核とする巨大な規模の事業であること
@経営リスクの大きさから,非営利的・公共的施設は自ずと制限される傾向が生ずること。現に本件事業における公共施設は,事業の成立に不可欠な道路等の他はきわめて貧弱であり,地域から望まれるような文化施設・福祉施設・教育施設・アフォーダブル住宅などのたぐいは皆無であるばかりか,建ぺい率の高さも異常であること。
A巨大開発を支える都市基盤,公共施設への負荷を増大させ,地域の生活環境に大きなマイナス要因となること。鉄道混雑問題も渋滞問題も何一つ対策はとられず,教育施設,福祉施設もないこと。
(特徴点2)東急グループ企業が事業地の85%以上を有している事業であること。
 これによって東急グループ企業の取得する利益は莫大であり,しかも「権利変換」の手法により,第T街区の一等地を東急グループ企業が取得しうることとなって事業の公平性も損なう結果となっていること。
(特徴点3)公園の都市計画を変更して実施された計画であること
 本件事業予定地の多くの部分は元々都市計画公園の都市計画決定がなされており,この計画に従って開発していくことにより,十分に公共的利益に貢献し得たにもかかわらず,このような地域に大規模未利用地の開発を目的とする再開発地区計画制度を適用することは法の目的に反すること。
(特徴点4)人工地盤が構築されること
 これにより,周辺地域の水害の危険性を高め,また地域のコミュニティを分断・破壊する恐れが大きく,公共的利益を損なうものとなること。
 以上のような控訴人らの主張に対し,被控訴人の反論は,実質的な根拠を何も示さないで,原判決の論旨をなぞるだけのものがほとんどである。以下念のために検討しておく。
イ 被控訴人は,大都市圏における宅地および住宅・業務床の供給の促進を図ることを制度趣旨の一つとしていることから本件事業に「合理的かつ健全な高度利用」が認められることは明らかとしている(15頁)。
 住宅・業務床の供給に貢献するのであれば,どのような超高層建築物でも許されると言わんばかりの主張である。このような環境無視の開発優先思想が都市の環境をむしばみ,近隣住民に大きな苦痛をもたらし,地域のコミュニティを破壊してきたのである。これは都市計画の根本思想を否定するものであり,許されるべきものではない。
 控訴理由書で述べたとおり,住宅・業務床の供給促進は,地域環境の改善等の公共的利益と統一的に果たされなくてはならないのであり,地域環境破壊を正当化するものとはなり得ない。
 とりわけ本件再開発事業で供給されるのは,高級なオフィス・商業施設と,高価な豪華マンションである。このような供給事業は,開発者の利益には直結するものの,地域の零細事業者や住宅困窮者の利益とはおよそ無縁の世界である。このような事業に容積率等の大幅な優遇をし,公的資金を投入することが許されるためには,本事業が公共的な利益に大きく貢献する内容を具備していることが不可欠である。
ウ 被控訴人は,道路,交通広場,歩行者空間としての広場,歩行者道路,歩行者ブリッジ,周辺の区画道路,街区公園などの公共施設の整備も含んでいるので,これらにより公共的利益への貢献も十分に果たされていると述べている(16頁)。
 しかしこれらの公共施設といわれているものが,ことさら公共的利益に貢献するものと評価しうるものではないことは,控訴理由書で詳しく述べたとおりである。被控訴人はこれら控訴人の指摘には全く何の反論もすることなく,ただひたすらこれらの施設によって公共的利益への貢献は十分だと強弁しているのみである。念のため要点を再度述べておく。
 @ 道路・区画道路
 本件再開発事業において整備される公共施設としての道路は,幹線街路4本,区画道路4本である(甲53・11頁)。なお区画道路とはU−b街区および鉄道街区の外側を画する道路である(甲2)。これらの道路は本件巨大再開発事業によって発生する膨大な交通需要の増大に対応する最低限の施策であり,せいぜい「都市基盤に対するマイナス面の影響への対策」の域を出るものではなく,しかも拡幅・整備区間は限局的で対策として十分なものかどうかも検証されていないこと,控訴理由書で述べたとおりである(57頁)。
 A 交通広場
 これは従来駅前にあったバス,タクシー乗り場が廃止され,改札口から約150メートル離れた場所に設置されるものであり,利用者は駅との往来のためには,商業施設ガレリアの中を約150メートルも歩かなくてはならなくなった。これは東急グループを中心とした商業施設内の通行を強要する商業主義優先の構造となっており,多くの住民にとっては不便になるばかりで,到底「良好な都市環境」に貢献するものとはいいえない(控訴理由書63頁)。
 B 広場,歩行者通路,歩行者ブリッジ
 計画では広場が3面,歩行者用通路・ブリッジが各2本整備されることとされている(甲163,164の2)が,これらはもっぱら再開発ビルなどの利用者のために必要な施設であったり,主に商業施設の利用のためのものであったり,人工地盤となったために必然的に必要となったものであったりして,地域の公共的利益に貢献するようなものとはいえないこと,控訴理由書で個別具体的に吟味しながら分析したとおりである(61頁)。
 被控訴人はこれらは周辺住民の利用を禁止するものではないから地域社会に貢献しないと評価することはできないと述べている(21頁)。しかし甲2の配置図を見れば分かるとおり,広場1号,2号は元の駅前広場であり,元々一般に開放されていた施設にすぎない。歩行者通路・ブリッジは,その主要な機能は駅やバスターミナルからV街区の超高層住宅群をつなぐ通路であって,周辺地域にとっての利便性などは極めて乏しいものといわなくてはならない。
 C 街区公園
 街区公園は2カ所に設置されるが,その面積は再開発事業区域の5.5%程度の小規模なものに過ぎず,本事業により新たに集積する人口(居住人口のみで3000人,昼間人口も数千人規模で集積が予想される。)を考えれば,十分に公共的利益に貢献するようなものとは考えがたい(控訴理由書62頁)。
エ 被控訴人は,従前の公園の都市計画が,事業地の大半を所有している東急グループ企業の事業的な欲求と矛盾していたことが,公園変更の最大の要因であったとの主張は,控訴人らの憶測に過ぎないと述べている。
 しかし以下の経過を見れば単なる「憶測」とは言い得ないことが理解されるであろう。
 昭和58年3月,世田谷区は「二子玉川市街地再開発構想」(乙8)を発表して商業・業務地区と低層高密住宅,緑の環境保全地区などを柱とする再開発の構想を示した。
 昭和61年11月の東京都都市再開発方針(甲89・38頁)では二子玉川東地区は,駅周辺の商業,業務機能強化のための高度利用と,都市公園の整備を一体として進めるものとされ,あくまで駅と近接した公園の存在を前提とするものであった。
 他方,世田谷区と東急との間では,この間に公園の移動についての協議が進められ,
@昭和61年11月15日には,「再開発事業は公園事業と一体として計画,実現する」こと,「都市計画公園・緑地の指定替え」について双方で努力すること,
A昭和62年10月31日には,公園指定の区域変更は,昭和63年度予定の用途地域一斉見直しに合わせて進めること,
B昭和63年7月29日には,「現行公園区域の変更を図るため」東急電鉄と東急不動産は変更後の公園用地約2万9300uを世田谷区に無償譲渡すること
などを内容とする合意書(「密約」)が作成された。
 この動きと平仄を合わせるようにして,世田谷区は昭和62年に「二子玉川東地区再開発基本計画」,「世田谷区新基本計画」などを発表し,公園移動とこれを前提にした「広域生活拠点」としての(旧公園用地を含む)広域性をもった再開発の構想を打ち出した。
 他方昭和62年7月に二子玉川東地区再開発準備組合が設立されたが,その運営は圧倒的な地権者である東急グループ企業がになうこととなった。
 こうして上記3通目の「密約」が締結された翌年である平成元年6月に公園の移動を定める都市計画決定がなされた。これによって駅に近接する好立地条件のU街区,V街区に当たる区域において,高層建築物の建設を中核とする再開発構想が可能となり,上記準備組合による本件再開発の計画が具体化していったのである。
 以上のように,それまでの昭和58年「再開発構想」や都の都市再開発方針では不可能であった公園部分を,再開発用地に組み込むことを目的に,東急が世田谷区を動かして公園の移動を実現させたのであり,東急の再開発事業遂行の欲求がその動機となったことは明らかである。
オ 被控訴人は,本件再開発地区計画が,公園の都市計画を変更して実施された計画であるとの点につき,同制度は「まとまった規模を有し,公共施設の整備は不十分であるが,鉄道駅等に近く,都市の枢要な位置を占めているという特徴を有する土地をも対象としたものであるから」,公園が予定されていた地域であるからといって再開発地区計画を定めることができないわけではないと述べている(17頁)。
 しかし同制度は社会情勢の変化にともなって生じた工場跡地などまとまりのある低・未利用地の有効活用のための新たな都市開発手法を定めたものであり,「地域の実情に即した再開発の推進」(乙92・123頁)がはかられなくてはならない。
 本件の事業地域は単なる公園予定地ではなく,都市計画として位置づけられたものである。すなわち「良好な市街地環境の確保」の観点から,その地区の様々な状況を勘案して民主的な合意の手続きを経て,都市計画として定められたものであることの重みを忘れてはならない。
 このような「地域の実情に即」するならば,この都市計画と整合する形で駅前の再開発が検討されなくてはならなかったはずである。現に前述した世田谷区の「58年構想」や東京都の61年「再開発方針」ではいずれもこのような検討作業が行われている。
 再開発地区計画制度は,すでにある公園の都市計画を廃止して再開発用地を生み出すなどということまで予定したものではない。
カ なお被控訴人は,本件再開発地区計画を定めた時点(H12.6.26)には,すでに公園変更の都市計画がなされていた(H1.6.16)のだから控訴人らの主張は前提を誤るものであると主張している(18頁)。
 しかし,それまでの都市公園を前提とした再開発計画を,公園の移動により広域的な超大型事業にふくらませることを可能にすべく,東急は昭和61年からの世田谷区との密室協議,62年の準備組合設立など,系統的な働きかけを行って,公園変更の都市計画決定を実現し,その上で本件の再開発地区計画決定に至ったのである。すなわち,公園変更は本件の都市再開発地区計画を可能にするためものであったのであり,これが先行して行われるべきことは当然のことである。なにゆえ控訴人らの主張が前提を誤ることになるのか全く理解不能である。
キ 被控訴人は「風致地区に再開発事業を禁じる法条はな」いと述べている(20頁)。
 風致地区には高層建築物を建築することはできない。風致地区の建築制限等を遵守した再開発事業も観念的には不可能ではない。ただし風致地区の規制と,都市再開発地区制度における建築制限の緩和は相矛盾することとなる。従って本件では再開発地区計画の決定と同時に,風致地区の指定は解除されたわけである。
 本件再開発事業が,風致地区として長年にわたり建築物の高さ,面積などを規制し,緑豊かで,良好な景観を地域住民全員の努力で守ってきた「地域の実情に即した再開発の推進」(乙92・123頁)などとは言い得ないことは明らかである。
ク 被控訴人は,本件再開発事業における公共施設の整備がきわめて低い水準であり,地域社会への貢献と評価できるものではないとの控訴人らの主張に対して,市街地再開発事業は,土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新との目的に合致していれば足り,地域社会への貢献が直ちに同事業の違法に影響を与えるものではないと主張している(21頁)。
 被控訴人の論旨は,住宅・業務床の供給により,制度目的は達成しているのであり,それ以上の「地域社会への貢献」は必要ないといっているわけである。しかし事業の目的適合性を判断する上で地域社会への貢献は一つの重要な要素であり,同制度の運用に当たってもきわめて重視されているものである。
 再開発地区計画制度においては土地の高度利用を実現するため,容積率制限,斜線制限,用途制限などの土地利用規制が特例的に緩和され,一般的に事業者にとってはきわめて有利なビッグビジネスの機会を提供することとなる。それだけに規制緩和を正当化する社会的妥当性が必要であり(「手引き」3頁。甲118),「プロジェクトが良好な地域社会の形成に資することとなるように努めること」(同20頁),計画においては「プロジェクトの都市に対する貢献・・の内容が明確に担保・誘導されるように定めること」,プロジェクトの評価に当たっては「プロジェクトが街づくりに大きな貢献をすること,・・地域の都市政策,都市整備上の課題に対する貢献策を開発の規模や位置特性に応じて内包していること」(同70頁)などが必要とされている。
 そしてさらには「プロジェクトの優良な都市環境の形成,良好な地域社会に対する寄与の度合いを具体的に検討し,容積率設定の指標とする。」(同75頁)と,地域社会に対する貢献の程度が規制緩和の基準となることが明らかにされている。
 こうしてみれば,地域社会への貢献がきわめて乏しいにもかかわらず,大幅な容積率緩和が行われたとすれば,「合理的かつ健全」な高度利用と言い得ないことは明確であり,そのような計画は上記目的規定に違反して違法と評価されなくてはならないのである。
ケ なお被控訴人は都市再開発法1条における「土地の合理的かつ健全な高度利用」との文言の解釈論(乙96)を引用して本事業は制度の趣旨に反するものではないと述べている(20頁)。
 しかし都市再開発地区制度においては,上記の通り地域の容積率を大幅に緩和して(超)高層建築物を許容することを趣旨とするものである。従ってそのような規制の緩和が「合理的かつ健全な」ものであるかが問題とされるのである。その評価の要素として「地域社会への貢献」が重視されているのであり,都市再開発法1条の目的規定の解釈をそのまま再開発地区制度に流用するのは明らかにごまかしの議論である。
コ 被控訴人は,本件再開発地区計画決定の内容は「再開発地区計画の手引」(甲118)における「優良な都市環境の形成等に対する貢献」の評価項目に掲げられている要素(75〜76頁)を具備していると主張している。
 しかしそれぞれの項目について,それがどうして具備しているといえるのかなどの説明は今日に至るも全くなされていない。
 上記評価項目に照らして検討すれば,下表に示すとおり,本件再開発事業の地域社会に対する貢献がいかに乏しいものかが明確となろう。
 
「手引」による評価項目と例示
本件事業の評価
a.市街地環境の改善
@道路,公園,駅前広場などの公共施設整備,駅とのアクセス改善
×事業規模に比して,道路,公園などの公共施設は貧弱。駅とバスターミナルのアクセスは悪化。
A広場状,歩道状,公園状の有効な空地の整備
×建ぺいは74〜80%と異常に高く,事業規模に比して有効空地は狭小
B防災,保安,公害防止等に寄与する施設の整備
×地域防災等に寄与する施設はなし。逆に周辺地域の水害の危険を高めている。
C親水空間整備,アトリウム,スルーブロックによる歩行者空間
×このような施設はなし。

b.都市における諸活動の効率化
@幹線道路整備等
×巨大開発に伴う交通需要の増加をまかなうには不十分。二子橋の混雑問題への対策もなく,いっそう激化させる危険あり。
A都市の再編に資する寄与する機能の導入
×なし。

c.美観の創出
@町並み整備,アーバニティの創出
×従来の町並みを破壊し,高層ビル群に置き換えたのみ。

d.良好なコミュニティ創出
@公的若しくは勤労者向け住宅の供給
×本事業によって供給される住宅は豪華マンションのみ。
A市民の交流やにぎわいを生み出す広場等の整備
×商業主義にまみれたアゼリアの広場は市民の交流とは無縁。広場等は人工地盤で地域から隔絶。
B福祉施設整備
×福祉施設などは皆無

e.地域の交通の改善
@道路,駐車場等自動車交通に関する施設整備
×交通需要の激増に対応しきれず、渋滞悪化。
Aペストリアンデッキ等歩行者交通施設整備
△歩行者通路は造られたが,地域への貢献の程度については不明。
B交通広場,交通ターミナル,バスベイ,新駅等の交通拠点に関する施設整備
×交通広場は整備されたが,駅へのアクセスは遠くなり不便。

f.地域経済の活性化
@産業構造の転換に対応した機能の導入,雇用の場の創出
△商業棟,業務棟が地域の雇用創出にどれほど寄与するかは不明。

g.文化の創造
@高次教育施設の設置,美術館,図書館,コンサートホールなど地域に必要な文化施設の設置・歴史的建造物の保全
×これらの文化施設は何もない。

h.その他
@供給処理施設(中水道,地域冷暖房等)整備
×これらの整備はなし。

 ○:具備している
 ×:具備していない
 △:どちらともいえない

5 争点5の(5)
(1)イ  洪水 について      
 控訴人らは、被控訴人の洪水被害に対する論述を見て、驚愕し、我が目を疑った。洪水に対する防災責任者である被控訴人が、洪水被害についてこのような無責任な反論に終始することは、極めて恐ろしいことと言わざるを得ない。
 事業者である再開発組合が「洪水対策は行政の責任である。」と反論することも、もちろん無責任きわまりない。しかし、被控訴人は、世田谷区長として「世田谷の安心安全なまちづくり」として、本件再開発事業が必要なのだとして遂行している責任者である。その責任者が、「水害、浸水被害は都市全体から見て必要な骨格的施設により対処すべきことは原審判決で述べるとおりであり、本件再開発事業において対処しなければならないものではない。」「世田谷区ハザードマップは浸水被害の根拠となり得ない」「再開発事業はその施行区域周辺の洪水問題を改善するために実施するものではない。」というのである。
 東京都の洪水被害は年々都市化、開発が進むことによって「都市型水害」の被害が深刻化している。それは、時間50o対応を前提とする下水道の整備さえ追いついていない現在では、「骨格的施設」だけでは対処しきれていないのが現状である。一方気象条件の変化で、ゲリラ豪雨や、時間100o以上の豪雨など、危険性は拡大している。これらの被害を防ぐためには、下水道の整備だけでなく、雨水の地下浸透を妨げる、開発行為、コンクリート化そのものを抑制したり、巨大開発の場合には、事業者にその周辺の雨水対策も含めた、巨大な貯留施設や遊水池等を設置することを求めることなどが必要である。容積率緩和にあたっては、当然このような条件を満たすよう、行政が指導すべきである。
 特に本件再開発事業予定地のように、もともと船底のような低地の地形で、区内最大の洪水被害が予想される地域については、「まちづくりによって、洪水が人災になる。」ということがないように、最大の配慮が必要である。
(2) 再開発事業、まちづくりにとって、防災のための安全性の確保は必須要件である。
 ちなみに、3,11の東日本大震災の際にはハザードマップ以上の被害が各地で発生した。世田谷区長が(みずからが長を努める)「世田谷区が作成したハザードマップは、上記のような洪水が現実に起きる可能性を示すものではない。」などという非常識な別訴高裁判決を引用してはならない。

6 争点5(6)  都市計画法第16条、17条について
 本件訴訟のもう一つの本質はこの点にある。
 都市計画制度における、住民参加規定についての現在の行政の運用は、まさに被控訴人の主張のとおり「被控訴人らの全てを反映させなければならないわけではなく、「機会」を設ければ良いので採用されない意見を述べた者が納得できるような合理的な説明をすることまで求めていない」と言う。
 前述したように、本件再開発事業は「行政と企業が一致して」行った。そこに、その町に実際に住み、暮らし、生活し、都市機能を利用している住民の存在は全く重視されていない。まちづくりの主体はだれなのか、誰のためのまちづくりなのか、特に住民の公金を注ぎ込んで住民の福祉の実現を図るべき、地方公共団体は誰のための町を創るのかと言うことが、この訴訟の本質である。
 意見を延べる「機会」さえ設ければ、合理的な説明すら必要ない、というのが、
行政の役割として、都市計画法、地方自治法の本旨に反していることは余りにも当たり前のことである。日本国憲法において、主権者は企業でも行政でもない、「国民」である。このような住民無視、軽視のまちづくりが許されてはならない。しかも、従来の風致地区、都市計画公園という建築抑制の都市計画を「諸情勢の変化」を理由に簡単に変更し、しかも、住民の声は全く無視する。こんな都市計画行政を追認するのが司法であってははならない。

第5 争点6   
1   都市再開発法16条、17条
 都市再開発法16条が何故意見書の審査にあたり、行政不服審査法の手続きを運用するのか、それはまさに、この手続きが住民らの権利保全のための手続きだからである。被控訴人は、この点を看過し、意見書の採択による修正命令は、都市再開発法17条の不許可要件に該当する場合だけに限られるような主張をするがこれは誤りである。
 ここにも、行政の「住民切り捨て、住民無視」で押し通す違法な形がい化した都市計画法運用の実態が明らかになっている。現在のこのような企業と癒着しした行政によるまち壊し、町の利益の集中、独占による、住民の住環境の破壊行為は、「まちづくり」による「国民の生命身体への公害」である。日本国中の住民が大型開発の名のもとで、危険にさらされ、命と健康を奪われ、美しい野山の豊かな自然を切り刻まれている。しかも、その事業に住民達の貴重な血税が湯水のように使われているのである。これを許してはならない。

第6   争点7    財務会計行為の違法性
1 本件再会初事業に公益性が認められないことは既に詳述したとおりである。仮に開発を許す場合であっても、それだけの開発利益を独占させるのであれば、通常の開発行為と同じように民間事業者にその負担で「道路、」「広場」「公園」「上下水道 」「学校、幼稚園等の教育、保育、介護 等の公共的施設」を創らせるべきであり、かかる多額の公金を支出するのは違法不当である。       

2 領収証、契約書等の基礎資料が添付されなければ、事後的監査が不可能であるとの 控訴人らの主張に控訴人は「監査実施の際に必要な資料を取りそろえれば足りるのであるから、監査が不可能と言うことはできない。」と開き直っている。 この見解で行けば、事後的にを作成したり、偽造変造したりして、資料のつじつま合わせが容易になることであり、監査の公正性は全く担保できない。
 それでは実際に、住民監査請求の際に、世田谷区の 監査委員はいかなる基礎資料を基に、監査したのか、その明細とその時監査作業に取りそろえて実際に使った基礎資料を本件訴訟においても明らかにして、証拠を提出して、説明するよう釈明を求める。
 そしてその資料が、実際に公金支出の時に世田谷区職員が実績報告書ととみに確認した書類と同一なのかどうか、詳細な釈明をもとめる。控訴審においては、この点を十分に審査すべきである。
 住民監査、住民訴訟は、主権者たる国民が自ら納めた税金の支出を監査するという、法律で保障された主権者としての権利行使である。そこで、監査作業の基礎となった、領収証、契約書、見積書、成果物などが一切証拠として提出されず、世田谷区職員OBが事務局長を務める再開発事業組合作成の実績報告書の提出のみで世田谷区が多額の公金を支出したことについて、漫然とこれを正当と認定するような審理されるとすれば他に類例をみない、何の公正さも担保されない、拙劣な監査としか言いようがない。
 三権分立の国家組織のなかで、司法が住民の請求により、行政を監査するという国家における最も重要で厳正であるべき手続きについて、基礎資料の添附手得出なくして審理を尽くしたとは言えないはずである。
 原審の判断は、町内会、民間会社、PTA、サークルなどでも、経費の支出の会計監査で「基礎的、原則的」に行われている「領収証の提出」すら求めずに監査の公正さを断じてしまっている。これが、司法が行う「最高の監査手続き、最高の監査に関する裁判」とは到底言えないはずである。余りにもおそまつな判断である。
 原審の判断は、まさに、司法への期待信頼を裏切る審理である。
 控訴審では厳格な釈明をして、被控訴人らも速やかに基礎資料を提出されたい。
 控訴審ではこの点について慎重な審理を求める。
                                   以上