
雨籠め | ||
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1.雨告鳥 | ||
口の中で水を転がすような、雨告鳥の鳴き声が聞こえた。夕刻の空には厚い雲がかかり、その下を黒猪のような雲が跳ねまわった。それにともなって山野の木下闇は陰影を増していった。 その山野を、擦り切れた鼠色の着物を着た少年がひとり駆けていく。両腕に日本刀を抱えている。まるで何者かに追われているように何度も後ろを振り返る。しかし少年を追う者は何もない。少年は貧しい小作人の息子だった。それが先刻、浪人の武士をこの刀で斬り殺してしまったのだ。その武士の刀を持ったまま逃げている途中だった。 強く横なぶる激しい雨が降り出した。少年の鼓動の様な雨だった。雨は少年に強く当り散らして、樹雨のように肌をつたって落ちた。雨は怯える心にさらに正体を無くさせた。どこをどう、どれだけの時間、こうして走っているのかさえわからなかった。夏なのに吐く息が白い。少年は夏の雨の中で凍えていたのだ。 山奥に灯りが見えた。自分を捜索する者の手ではないか、そう思ったが雨の寒さにふらふらと近づいて行ってしまっていた。 そこにはひとつ小さなお堂があった。 | ||
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