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雪だるま
 

 

 ミーちゃんとタアちゃんの両親は、結婚して10年になりました。今日はその記念日なのですが、おかあさんはため息をついて、いつもはめている結婚指輪をはずしてしまいました。おとうさんは街に出かけてしまい、小さなたたずまいの一軒の酒場に入って、そこで冷たいお酒を飲みました。ミーちゃんとタアちゃんは、寝床に入っても、暗闇の中で大きく目を開けていました。
「おねえちゃん。あした、雪が積もったら、雪だるまつくろうね」とタアちゃんがささやきます。
「そうね、雪だるま。きっと、つくろうね」と、ミーちゃんもささやき返します。
「しずかになさい! おしゃべりは、明日、明日」と、ご機嫌斜めのおかあさんが怒鳴りました。

 灰色の空から、ふわふわのゴミのように見える雪がとめどなく降りかかってきます。
 ミーちゃんとタアちゃんは、目をこすりながら窓辺に寄りました。この分だと、午前中に積もりそうです。
 「ママ、パパは」と、ミーちゃんが聞きます。
「会社に行ったわ。ミーちゃん、冷蔵庫からたまごと牛乳を出してくれる。タアちゃんは、戸棚の中からホットケーキの粉を出してね」とおかあさんがいいました。 
 焼きあがったホットケーキをおかあさんは皿に移しながら、
「パパが牛乳ならわたしはたまご。そして、粉に混ぜてこねあげたのが、子供たち。不思議だわねえ、もはや分離はきかないわねえ」などと、わけのわからないことをブツブツつぶやいています。
「おねえちゃん、聞いた。パパが牛乳で、ママがたまごだって。そして、こねてできたのがぼくたちだってさ。じゃ、ホットケーキのうえにのせるバターとハチミツは何でしょう」と、タアちゃんが聞きます。
「しらない」とミーちゃんはぼやいて、おかあさんの方を心配そうに見ました。  

 おかあさんは、きょうだいがホットケーキを食べるのを見とどけました。そのあとで、「ちょっと寝るわ。お昼になったら起こしてね」というと、薄いふとんを出しておかあさんは寝ました。 
 実は、おかあさんはもうながいこと、病気です。フーと気が遠くなるといったり、動くとドキドキするといったりして、何か仕事をしていても、すぐにペタンと座ってしまいます。そして、どちらにしろ、ふとんに入ることになるのです。
 元気いっぱいだった頃のおかあさんとは別人のようなおかあさんになってしまったのですが、おとうさんが結婚指輪をはめてあげたおかあさんは、若さに輝いていたおかあさんであり、くるくる働いて、おとうさんの世話をこまごまとやいてくれるおかあさんでした。おとうさんは、そんなおかあさんの姿が忘れられません。おかあさんの方では、わたしは変わったのよ、今のわたしに慣れてちょうだい、とおとうさんに注文を出します。おとうさんとおかあさんが喧嘩をするわけは、ミーちゃんにはうすうすわかりました。タアちゃんには何が何だかわかりません。おとうさんもおかあさんも、疲れているようでした。互いに、相手からやさしくされたいと願っているようでした。
「ママ、外へ行ってもいい」と、ミーちゃんが聞きます。
 おかあさんは眠りかけのあいまいな声で、「上着を……着るのよ……」と注意しました。

 おかあさんは、寝床の中で夢を見ていました。
 薬が化けたのでしょうか、それとも病院が化けたのでしょうか、あるいは科学が化けたのかもしれませんが、おかあさんは白いマンモスに向かって、「能なし!」と叫んでいました。
 ちょうど、その頃、おとうさんもお昼休みの会社の机でうたたねをし、やはり夢を見ていました。おそらく、病気がそいつに化けたのでしょうが、おとうさんは黒いマンモスに向かって、「ぶちこわし屋!」と、こぶしを振りあげていました。 

 空気の流れを感じておかあさんが目をさますと、まもなく正午でした。ふとんを抜け出して窓辺に寄ったおかあさんの目に、きょうだいの姿が映りました。 きょうだいは、アパートの庭で、もくもくと雪遊びをしていました。おかあさんのくちびるから笑みがこぼれます。 
 おや、ミーちゃんがいきなり立ちあがって、かけて行きます。くくっと曲がって、アパートの中に入ったようです。タアちゃんもあとに続きました。
 おかあさんが何事かと思ってドアを開けて待つと、ミーちゃんがわあわあ泣きながら到着し、真っ赤になった両手を差し出しました。タアちゃんも遅れて、同じようにわあわあ泣きながら到着しました。やはり、両手が真っ赤でした。 
 きょうだいは、雪をいじりすぎて手をはらしたようでしたが、おかあさんにタオルに包んであたためてもらうと、すぐによくなりました。そして、おかあさんがとめるのも聞かずに、また外へかけて行きました。 しばらくして、きょうだいは再びわあわあ泣いてドアから飛びこんでき、また手がなおると外に出ました。そんなことを繰り返して、きょうだいは望みの雪だるまをつくりあげました。

 とうとう、おかあさんが雪景色の中へ出てきました。
「ママァ、見て、見て、雪だるまの完成よ!」と、ミーちゃんが目をまるくします。
「そうだよ、きゃんせいだよ!」と、タアちゃんが口を逆三角にします。 
 おかあさんは、あきれたような、また感心したような目で、雪だるまをながめました。きょうだいは、真っ赤の両手を天にあげて、雪だるまのまわりをサクサクかけます。
「あ、目。目がないよ。この雪だるま」といって、タアちゃんがとまりました。

 夜になって、会社から、おとうさんはアパートまで帰ってきました。雪景色の中に、アパートがひとしおしんと存在しています。何階からかピアノが、たくさんの玉をばらまくように華麗に鳴り出しました。おとうさんはひとしおさびしくなり、この気持ちには冷たいお酒があうように思いました。
 そして、自転車置き場の辺りまで引き返した時でした。そばの砂場の雪の中によごれた雪だるまが立っていて、おとうさんの方を見あげているではありませんか。つぶらな目はマーブルチョコでした。おとうさんは、ちょっと首をかしげて雪だるまを見、車の鍵をポケットの中でもて遊びます。そして、何となく靴を半回転させ、アパートの入り口へと向かいました。

〔了〕

 


            


  
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