<世界航空機年鑑2013>

ヘリコプターの展望

開発意欲満々の欧州メーカー

 ヘリコプターの開発は近年ヨーロッパのメーカー各社が旺盛なる意欲を見せている。対するアメリカ勢は既存の軍用ヘリコプターの改良や生産に忙しいせいか、新機種の開発に目立った動きは見られない。

 最も活発に動いているのがイタリアのアグスタウェストランド社。40年前に開発された軽双発ヘリコプターA109を次々と改良し、最新のAW109SPグランドニューは40年前に始まったものとは思えぬほどで、キャビンも大きくなり、複合材の採用や最新の電子機器など完全な高性能機に成長した。

 その改良に平行して開発されたAW139は、これも近年まれに見る傑作といえよう。今世紀に入って間もなく、2001年初めに飛び始めた同機の特徴は中型多用途機として使い勝手が良く、重量に対するエンジン出力(1,679shp×2基)が大きいために高温・高地の悪条件下でも本来の性能が低下しない。キャビンも広く、搭載量の大きさに加えて、300q/hを超える速度性能と900km以上の航続性能を有するところから、多くの顧客の心をつかみ、型式証明の取得いらい10年足らずで総数およそ670機を受注した。

 日本からも2012年末現在38機の注文が出ており、そのうち21機が顧客へ引渡された。内訳は海上保安庁へ11機、警察へ4機、消防へ3機、報道用3機。さらに2013年3月までには海上保安庁へ3機、消防へ1機が引渡される予定で、4月以降の2013年度も10機が引渡されることになっている。同じようにAW139は中国からも40機の注文を受け、1機はすでに北京消防本部へ引渡された。

 さらにロシアでも大きな需要があり、ロシア・ヘリコプター社とアグスタウェストランド社の合弁、ヘリヴァート社がモスクワ近郊の工場でAW139の最終組立てをしている。2013年1月15日には1号機が完成し、初飛行した。このロシアとイタリアの合弁事業は2008年に始まったもので、これから毎年15〜20機を生産してゆく計画という。


カナダではAW139も救急飛行に使われている

 AW139に続いて、アグスタウェストランド社はひと回り大きな8トン級のAW189を開発中。原型機は2011年に初飛行し、石油開発に使う場合は作業員16〜18人を乗せて沖合プラットフォームへ往復することができる。まもなく原型2号機も飛び始め、2013年中に型式証明を取得、14年に引渡し開始の予定。

 つづいて、やや小型のAW169の開発も進行中。同機は総重量4.5トン程度で、警察、消防、救急、および社用ビジネス機としての用途を想定し、2014年に型式証明を取得、15年に実用化される。量産はイタリアばかりでなく、英国のヨービル工場でもおこなわれる。将来は操縦系統にフライ・バイ・ワイアを採用する計画。

 これらAW139、AW169、AW189は相互の共通性を高めるために同じ技術を取り入れ、コクピットには同じアビオニクスを採用する。この共通化により、現在AW139のパイロットは、ごく短時間の訓練でAW169やAW189に乗り移り、操縦することが可能となる。


AW169

ユーロコプター社も競り合う

 イタリア勢と競り合うのがフランスとドイツの合弁、ユーロコプター社である。同社では7人乗りのEC135軽ヘリコプターがAW109に対抗して1990年代後半から実用段階に入り、最近までにおよそ1,000機の大量注文を受けた。

 ユーロコプター社の新しい開発計画はEC175。16人乗りの中型機として中国との共同開発にもなり、2009年に初飛行した。アビオニクスはA380巨人旅客機と同じものを採用したが、複雑をきわめて開発に手間取り、作業工程が半年ほど遅れることになった。そのため型式証明の取得も遅れ、量産機は2014年秋から引渡しに入る。競合機はAW189だが、最近までに80機の注文を受けている。


EC175

 欧州4カ国――フランス、ドイツ、オランダ、イタリアが共同開発したNH90大型多用途ヘリコプターは、2012年末までに133機が生産され、14ヵ国へ引渡された。これらを合わせた総飛行時間は31,000時間以上。このうちベルギー向けの初号機は2012年12月に引渡された。ベルギーの発注数は8機で、そのうち4機は陸上輸送機として昼夜を問わず全天候飛行が可能。残り4機は艦載機として対潜水艦作戦、艦隊支援、捜索救難などの任務にあたる。

 もうひとつ、ユーロコプター社ではX3実験機の飛行が続いている。EC155ヘリコプターを基本とし、短固定翼を取りつけて両端にプロペラを配し、プロペラの推進力と固定翼の揚力負担によって、高速飛行を可能にする。2010年9月6日に初飛行し、最近までに430q/hの速度を記録している。 


NH90

米メーカーの動向

 アメリカでは2012年10月、シコルスキーS-76Dが型式証明を取得した。同機は、かねて生産が続いていたS-76の改良型で、エンジン、アビオニクス、操縦系統、ローター機構などを改め、「新世代のヘリコプター」として2009年に初飛行した。当時は2010年中に型式証明を取るというもくろみだったが、これが2年ほど遅れたのは、アビオニクスとエンジンの開発が遅れたためという。2013年から月産3機の量産に入る予定。

 またシコルスキー社では新しいCH-53K軍用機の開発が進んでいる。米海兵隊向けの大型輸送用ヘリコプターで、GE38-1Bターボシャフト・エンジン(7,500shp)3基を装備、2013年から飛行試験を始める。この大型機を米海兵隊は将来200機調達する計画という。

 さらにシコルスキー社はX2と呼ぶ同軸反転式のローターを持つ高速実験機の試験飛行を続けている。2008年8月27日に初飛行した同機は2010年9月15日、設計目標の250ノット(460 km/h)という水平飛行速度を実現、非公式ながら回転翼機の世界記録をつくった。さらに同じ飛行中に2〜3°のゆるやかな降下で260ノット(480 km/h)の速度も記録している。


シコルスキーX2

 ベル・ヘリコプター社では2009年に型式証明を取得したモデル429軽双発機の量産が続いている。同機はこれまで総重量7,000ポンド(3,175kg)で型式証明を認可されていたが、これを2012年1月500ポンド増とすることがカナダ運輸省から認められた。欧州航空当局もそれを追認したが、米FAAは重量増加のためには鳥衝突に対する機体やローターブレードの強度が不充分として認めていない。ただし将来、連邦航空規則(FAR)を見直して、429の重量増加を認めるかどうか改めて検討するという。なおモデル429は2012年秋の時点で91機が出荷ずみとなった。日本ではドクターヘリとして1機が飛んでいる。

 この429の技術経験を生かして2012年初めから開発が始まったのが新しいベル525リレントレス。AW139やEC175と競合する総重量8トン余の中型双発ヘリコプターで、1,800shpのターボシャフト・エンジン2基を備える。またグラス・コクピットになっていて、タッチスクリーンがつく。操縦系統は民間ヘリコプター初のフライ・バイ・ワイアを採用してスムーズな操縦を実現する。市場目標はオフショア、社用ビジネス機、要人輸送、警察、消防、救急などで、客席は最大16席。260q/hの高速性能をもち、航続距離は740km。2012年秋から原型機の製造が始まっており、13年夏に初飛行、15年に型式証明を取る予定。


ベル525

 ボーイング社のバートル部門(フィラデルフィア工場)ではCH-47チヌークの量産が続いている。1号機が米陸軍に引渡されたのは1962年だったから、2012年は50周年に当たり、記念行事もおこなわれた。この間およそ1,200機のチヌークが製造され、今も800機以上が飛行中。最新のCH-47Fはオランダ空軍向けの6機でグラス・コクピットを有し、2012年10月に初飛行した。2015年からは米国防省にも155機が納入される。

 エンストローム社では2種類の小型ヘリコプター――480B単発タービン機とF28単発ピストン機の生産が続いている。480Bは日本で陸上自衛隊の練習機として採用され、2011年から34機の納入が始まった。これを契機として同社の業績が向上したためか、最近の報道では中国の重慶にある投資会社に買い取られたもよう。

米大統領専用機の提案競争へ

 米国防省はアメリカ大統領専用機(VXX)の新たな選定作業に入った。米海兵隊がマリーンワンとして運航するヘリコプターで、現用VH-60N(シコルスキーS-61N)に代わって、2020年からの運用開始を予定している。選定は量産中の機種から選び、必要によってローター、エンジン、機体などに多少の改修を加える。

 米大統領の専用ヘリコプターは前にも選定競争がおこなわれ、2005年にアグスタウェストランドAW101三発ヘリコプターがVH-71の呼称で採用された。しかし作業が遅れ、価格が高騰したため、計画中止となった。このとき米政府と直接契約を結んだのはロッキード・マーチン社だったが、コストは契約時の65億ドルが130億ドルへ倍増し、調達予定28機の価格が1機当たり450億円相当という、考えられないような金額に上昇、オバマ大統領に「狂っている」と批判され、2009年6月契約が破棄された。

 今回の選定競争は、国防省が2012年11月に要求を出したもの。これに応じてアグスタウェストランド社は米ノースロップ・グラマン社と組み、再びAW101を提案する。またシコルスキー社はロッキード・マーチン社と共にS-92双発ヘリコプターを提案、ボーイング社はCH-47チヌーク、もしくはV-22オスプレイの提案を考えている。

 なお、オスプレイはボーイング社とベル社が共同生産中のティルトローター機で、米国防省は最終的に458機を調達する計画だが、最近までに250機近く製造された。米海兵隊は2012年夏、12機のMV-22を沖縄に配備した。2013年夏にも追加12機を配備する計画という。さらに米空軍もCV-22を配備する意向と伝えられる。これらの沖縄配備に対しては地元の反対運動もあるが、米海兵隊の統計では、オスプレイの事故率が海兵隊の使用する航空機全体の平均よりも低い結果を示している。

 一方、イタリアでは民間むけティルトローター機の開発が進んでいる。アグスタウェストランド社のAW609ティルトローター機がそれで、原型2機の試験飛行は2003年以来750時間ほどになる。目下製作中の原型2機もまもなく飛行し、合わせて4機で2016年までに型式証明の取得をめざす。

中国に新しい攻撃ヘリコプター

 中国はこれまでロシアのヘリコプターを輸入する一方、欧州メーカーの支援を受けて共同開発もしくは共同生産という形でヘリコプターの製造に携わってきた。最近は、上述のとおり米エンストローム社を買い取って、重慶で製造するという計画も伝えられる。

 また2012年秋の珠海航空ショー「中国国際航空航天博覧会」ではZ-10とZ-19と呼ぶ2種類の攻撃ヘリコプターが公開された。どちらも西側の攻撃ヘリコプターと同じ格好で、タンデム複座の2人乗り。機首にターレットをつけ、胴体に短固定翼がついて火器を装着する。ただし、詳細は不明。

 このうちZ-19はZ-9の改良型。Z-9は主ローターや尾部フェネストロンなどの推進系統をユーロコプターEC365ドーファンから流用し、これを改良したZ-19は中国製のターボシャフト・エンジン(848shp)2基を装備する。武装偵察が主要任務と見られる。したがって機首の機銃はなく、左右の短固定翼機にミサイルかロケット弾を装備する。


Z-19

 もうひとつのZ-10は全く新しいもので、米国のアパッチ、ロシアのMi-28やKa-50を初めとする第2世代の攻撃ヘリコプターに並ぶ能力をめざし、外観はアグスタウェストランド社のT129マングスタ攻撃ヘリコプターに類似する。しかし珠海航空ショーまではほとんど何も知られてなく、ショーへの突然の登場と、敏捷な曲技飛行はすぐれた運動能力を示すもので、観客を驚かせた。

 エンジンはウクライナ製のTV3-117エンジンだが、いずれ2,000shp級の中国製2基に換装されるもよう。短固定翼には左右2ヵ所ずつに火器取りつけパイロンがあり、機首には12.7ミリまたは23ミリの機銃がつく。

 こうしたZ-10はすでに量産段階に入っており、実戦配備がなされているもよう。作戦任務は地上部隊の火器支援、または対戦車攻撃。


西側を驚かせたZ-10攻撃ヘリコプター

 一方、中国はロシアからMi-17V5やKa-32A11BCといった輸送用ヘリコプターを買いつづけている。かつてはロシアのMi-6やMi-26大型ヘリコプターを導入していたが、今後もロシア機の導入は続くもよう。現に珠海航空ショーでは52機のMi-17を購入する契約が発表された。これに伴い、ロシアと中国の間では北京にヘリコプター・サービス・センターを設ける計画も話し合われているという。

 ロシアでは、ミルMi-171としては初めての民間型がインドネシアの鉱山事業会社に引渡された。最大離陸重量は13,000kg。乗員3人のほか26人の人員を乗せることができる。

 (西川 渉、世界航空機年鑑2013年版所載) 

 

表紙へ戻る