<謹賀新年>

爆発する電子書籍

 

 拙著『ドクターヘリ』が電子図書になったのは去る8月のことでした。それに備えて、前年の2011年9月iPadを購入しました。なにしろ自分の本を自分で読めないというのもシャクですから、出版社に聞いてiPadなら読めるといわれたからです。しかしiPadを手に入れ、画面を指先でこするというヘンな操作に慣れてはきても、私の電子本が実現したのは1年ほど後でした。

 アメリカでは電子本の普及が大変な勢いで進んでいるそうです。それに対して、日本でなかなか進まないのは出版社が電子本に消極的、というよりも反対しているからとか。むろん拙著を出していただいた時事通信社は、現にこうして紙の本を電子化したくらいですから、反対ということはないはずですが、一般に電子化反対という旧弊な出版社も多いとのことです。

 しかし電子本の方が紙も要らず、印刷や製本の手間もかからず、輸送費も不要ですから、出版社からしても都合が好いのではないでしょうか。まあ、いろんな考え方があるようですが。

 とはいえ、この2〜3ヵ月来、急に電子本が増えたような気がします。既存の旧版を電子化するものがほとんどで、それもマンガが多いのですが、最近は普通の書籍も電子化されるものが出てきました。

 これらの電子本を買いにゆくと、「立ち読み」というボタンがあります。これを押すと、最初の10頁とか第1章とかを読むことができます。本物の本屋さんで長々と立ち読みするのは気がひけますが、パソコン上の立ち読みはゆっくりと買うかどうかを考えることができます。そのうえでこれはと思えば、購入操作に移り、最後にお金を払う。そのお金も多くは紙の本より安い。拙著などは2割引きになっております。

 購入手続きが終わると「ダウンロード」のボタンが現れる。それをクリックして、その場で読書が始まる。まことに手軽ですから、寒い夜中に布団の中で電子書店に入り、目当ての本を探し出して所定の操作をすれば直ちに新しい本が読める。わざわざ本屋まで出かけて行って、沢山の本が並ぶ棚の中から欲しい本を探し出し、お金を払ったりする必要がありません。

 さらにiPadの画面で文字の大きさを調節できるので、これも近眼や老眼には都合が好い。この歳になると文庫本の小さな活字など見ただけで読む気がなくなりますが、電子画面では1文字を1センチ四角くらいの大きさに拡大して楽々と読むことができます。私には、これが最も喜ばしいことでした。それに文庫本は永く読みつがれるような本が選ばれていますから、昔のものでも電子化すれば大いに意義のあることです。買い手が少なくなったために絶版にしたような文庫本、さらには普通の本もぜひ電子化によって復活させて貰いたいものです。

 今、私の電子本の購入記録をたどってみますと、11月なかばから1ヵ月半で、いつの間にか20冊余の本を購入しておりました。こうしてみると、電子本によって出版者や著者が何らかの損害をこうむるのではなく、逆に売れゆきが伸びるのではないでしょうか。

 そう思いながら電子書店を歩き回っていると「ブラックジャックによろしく」というマンガを探し当てました。よく見ると、初期の13巻が全巻無料というのです。その太っ腹に感謝しながら、すぐにダウンロードして読んでしまいました。この本はマンガというよりも劇画風の筆致で、内容もきわめてリアル。医師の不足に始まって、癌の告知をするかしないか、手術や抗がん剤が効くか効かないかなど、10年ほど前から今につながる医学界の問題を主題としていて、わが身につまされながら読みました。ちなみに、このマンガは2003年、連続テレビ・ドラマになって、全11話がフジテレビから放送され、さらに「涙のがん病棟編」が特別篇として放送されたそうです。そのロケに協力したのは、私も昨年同じような病気で入院していた千葉北総病院とのことで、ちょっとびっくりしました。

 こうした電子本に対して、この一と月の間に私の買った紙の本は5〜6冊ですが、ほとんど積んだままになっております。

 以上は、むろん私だけの体験です。けれども電子本の普及は、もはや押しとどめることができないのではないか。いくら出版社が抵抗しても、そんな出版社は読者の方が相手にしなくなるでしょう。この調子で事態が進めば、今年の本の世界は電子本が爆発的に増えるにちがいない――そんなことを思いながら、寝床の中で電子本を読みつつ新年を迎えたところです。

 今年は私も喜寿だそうですが、古希になった年から年賀状を欠礼し、本頁をその代わりとしております。
 佳き年のご多幸をお祈りいたします。

(西川 渉、2013.1.1)

【野次】

 本の流通にとって最も大きな力を発揮するのは取次店である。上の著者は、そのことに気がついていない。

 電子本は取次店など要らない。有名な取次店はトーハンや日販と呼ばれる会社だそうだが、本の出版に関する細かいルールを決めているのも、これらの企業らしい。その取次店が出版社から書店までどのくらいの手数料で本を届けてくれるのか。もし3割とか4割の手数料だとすれば、電子本は印刷、製本、輸送などの経費も要らないから、値段は半分くらいになってしまう。

 日本の電子本が遅れているのは、この取次店の存在に最大の問題があるのではないのか。逆に、このあたりの問題がなくなれば、読者はもっと安く本を読めるようになるはず。貧乏な本キチガイとしては、もっといろいろ研究しなくてはなるまい。

(野次馬之介、2013.1.4)

 

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