<昔からの基本方針だった>

「亡命者は追い出せ」

 外務省が性懲りもなく世界に恥をさらすので、本来の仕事が滞って困る。人道意識など、彼らにはかけらもないようだが、こちらはその一点だけで頼まれもせぬ論考を展開しているのだ。

 14日夜もヘリコプター救急について、ある雑誌のために締め切りの迫った論文を書いていたところ、今度は北京駐在の大使が馬鹿げた指示を出したというニュースが飛び込んできた。途端に腹の虫が騒ぎ出し、締め切りなどはそっちのけで14日深更、次のような作文が出来てしまった。

 中国瀋陽の日本領事館に北朝鮮の5人が駆け込み、それを中国の官憲が拉致して行った事件の4時間前、5月8日午前の日本大使館(在北京)で全体会議の席上、大使が職員に対して公館敷地内に亡命者を入れないようにという指示を出していたという。この人は大東亜戦争で勇名を馳せた将軍の孫にあたるとのことだが、「唐様で書く三代目」とはまさしくこのことであろう。

 三代目の指示は瀋陽の領事館にも伝わっていただろうから、副領事が眼の前で泣き叫ぶ女子どもには目もくれず、中国警官の帽子を拾ってやったり、亡命者をつかまえてくれて「謝謝」と言ったのは、当然の成り行きであった。中国側のそうした発表を何とか誤魔化そうと、無駄な税金を使って調査団を送りこみ、ご大層な報告書を発表したけれども、これを信じている人は日本人の中にも多くない。テレビでも「信じたいけれど」という発言が多かったのは、言外に「信じていません」と言っているのである。

 このニュースが伝わる前の番組で、ニュース・キャスターの1人が、国外滞在中に暴動や戦争など危険なことが起こったときは、日本大使館ではなくアメリカ大使館に駆け込む方が安全という話をしていた。たしかに、中国瀋陽の町では日米の領事館が隣合わせに並んでいるそうだが、アメリカ側に駆け込んだ北朝鮮人はすでに韓国入りしたにもかかわらず、日本側に駆け込んだ5人は中国官憲に囚われの身となったままである。

 そういえば、以前にも同じような話を聞いたことがあると思いながら記憶をたどってゆくと、私自身5年前の本頁に同じことを書いていたのであった。1997年夏、内乱の危機迫ったカンボジアにいた邦人の人びとに対し、日本政府が何もしてくれなかったばかりか、プノンペンの日本大使館は助けを求めてきた日本人に門扉を開けず、追い返しにかかったというのである。(参照:航空の現代「門扉をあけない政府」97年7月28日)

 してみると、北京の三代目や瀋陽の副領事の言動は今にはじまったことではなく、外務省の昔からの基本方針であった。つまり日本の在外公館は、北朝鮮どころか日本人ですら受け入れるつもりはないのである。この教訓は、これから海外旅行をしようという人は充分心得ておく必要があろう。

 いっそ外務省自身がこのことを公表すれば、間違って駆け込んだりする人もなくなるし、今後の面倒がなくていいのではないか。旅行者向けの海外安全情報の中にも、瀋陽ではアメリカ領事館、北京ではスペイン大使館という具合に駆け込み先を明示するよう、ここに提案しておく。

 ところで、同じニュース番組の中でキャスターがビルマで解放されたばかりのアウンサン・スーチー女史に電話インタビューをしていた。その対話の最後に「スーチーさん、日本の外務省がボロボロになっているのをご存知ですか」と訊いたところ、先方から返ってきた答えには参ったね。

 電話の向こうでクスリと笑いながら、こう言われてしまったのである。「外務省だけですか?」

(小言航兵衛、2002.5.16)

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