「そんなこと聞いてなかった」

  

 先日ある男にちょっとした相談を持ちかけたところ、開口一番「そんなこと聞いてなかった」といわれた。当然である。いま初めて相談することだから、誰も知るはずがない。

 途端に1年ほど前、会議の最中であったが、やはり同じ男に同じようなことを言われたのを思い出した。そのときは、この男、前回の会議を欠席したので、聞いてないのは当然。こちらは前の会議の続きを話していたのであって、欠席した男のために、いちいち時間をかけて前回の説明をするほど暇ではない。国の税金で食っている男で、こういう人間には以後、相談を持ちかけたり、会議で同席するのはやめようと思う……。

 と、まあ、こちらの品性を落とすようなことを書いたのは、古新聞のスクラップの中から偶然「社内の禁句10選」という記事を見つけたからである。平成2年4月14日付の『日刊工業新聞』で、大きく「そんなこと聞いてなかった」という見出しがついている。逆に、この見出しを見た途端に上の一件を思い出したのであった。

 新聞記事の内容は当時、住友金属工業が社内で使用禁止にしたい言葉を募集したところ650句も集まり、最も数の多かった第1位が「そんなこと聞いてなかった」というせりふだったらしい。

 その10位までを並べると、次のようになる。 

 ,修鵑覆海畔垢い討い覆った(聞いていない)

◆,修鵑覆海函文世錣譴鵑任癲砲錣ってる

 前例がない(から駄目)

ぁ.Ε舛痢併笋痢肪甘(仕事)ではない

ァ,修鵑覆海箸眞里蕕覆ったのか(知らないのか)

Α‥当にやっておいてよ

А〃誅世世姥世辰討れ

─)擦靴いら後にして

 上が言ってるのだから仕方がないだろ

 そんなこと当たり前だろう(常識だよ)

 

 住友金属によれば、これらの言葉を使わなければ、お互いの発言が率直で自由になり、社内の風通しが良くなって、コミュニケーションが進むらしい。あれから8年を経過して、果たして効果はどうだったであろうか。

(小言航兵衛、2000.6.10)

「小言篇」目次へ (表紙へ戻る)