<ヘリエクスポ2018>

自律飛行へ向かうヘリコプター界

 毎年恒例のヘリコプターの祭典「ヘリエクスポ」は去る2月27日から3月1日までラスベガスで開催された。
 ヘリコプターに関連するメーカーなど705社が出展し、51機の機体が展示され、集まった観客は17,000人以上という盛況ぶりであった。





ベルの社名変更と将来構想
   
    今年は驚いたことに、現実のヘリコプターよりもeVTOL、すなち未来型の電動無人機と自律飛行が話題の中心であった。
 事実、老舗(しにせ)のベル・ヘリコプター社がヘリコプターの文字をなくし、単にベルと名乗って登場してきたのである。その趣旨は「わが社はもはや、ヘリコプターだけの会社ではない。ティルトローターの会社でもない。飛ぶための、あらゆる技術を生み出す会社」というのだ。
 ロゴマークもトンボの図柄に改められた。「トンボはすぐれた飛行能力をもち、昆虫の中では最も早く数億年前に空中へ進出、垂直飛行や空中停止が可能で、前後左右に飛ぶこともできる。これからは、そのような未来志向の航空機を開発してゆきたい」
 そうした考えのもとに、早くもベル社は新しい将来構想に着手しつつある。向こう数年以内に実現したいというのがエアタクシー計画。パイロット不要の無人機による「空飛ぶタクシー」として、配車サービスのウーバーと協同で事業を展開することにしている。
 同機は複合材の未來型胴体と飛行中に変形するローターブレードを組み合わせ、ハイブリッド・エンジンを装備し、自律性、操縦性、飛行性能の調和をはかるもの。ベル社はできるだけ早くモックアップの製作に取りかかる予定である。
 こうしたエアタクシーは人の移動ばかりでなく、物品の輸送にも使える。また軍用機として戦場での作戦行動も可能。つまり万能の航空機をめざすというのがベル社の意気ごみだ。
 無論その行く手には法規制の問題、型式証明の取得、経済性などさまざまな問題がある。そこでベル社はすでにFAAとの間で話し合いを始めており、2023年には本拠地のダラス・フォトワース地区でエアタクシーを実用化し、地上交通の混雑解消をめざすとしている。今回のヘリエクスポでも、このエアタクシー計画がベル社の中心的な話題となった。
 こうした将来構想への第1歩として、ベル社では昨年末初飛行したV-280の試験飛行が順調に進んでいる。第3世代のティルトローター機として実用化される見こみである。
   
 
 
都市交通をめざすシティエアバス
   
    ベルに対抗するかのように、エアバス・ヘリコプターズも電動のeVTOL計画を進めている。試作機は今年中にも初飛行の見こみ。.
 これは「シティエアバス」と呼ばれ、機体の形状はSF映画のように見えるが、むしろ最も現実的、実用的というのがエアバス社の言い分。航空輸送の分野に新しい時代をもたらすものという。
 具体的には、前後左右に4組の上下反転するローターを持ち、それぞれがダクトの中に収まっている。動力源は140キロワットのリチウム・イオン電池。これが電動モーターを回し、ローターを回す。ローターはピッチ角の変更はできないが、個別に回転数を変えて、機体の向きを操縦する。
 つまり極く単純な機構になっていて、この単純さのゆえに整備費はほとんどかからない。機体の大きさも8m×8mと比較的コンパクトだから、狭い場所でも離着陸できるし、電動モーターやダクトの中のローターはほとんど騒音を発することなく、都市交通機関としては好適といえよう。
 総重量は2,200kg程度。そのうち電池が約500kgを占める。乗客は4人。航続距離は100kmほどだが、これだけあれば大きな都市でも端から端まで飛ぶことができる。試作機の初飛行は2018年12月をめざしている。今回のヘリエクスポでは5分の1のモックアップが展示された。
 こうしたシティエアバスは乗客4人を乗せ、当初はパイロットが乗って飛行するが、将来は大都市の一定経路をパイロットのいないまま、乗客だけで自律飛行する。ただし「そうなるまでには、乗客の心理的な不安感がなくなる必要がある」ので、果たして人びとに受け入れられるかどうか。
 もっとも、われわれも昔、羽田空港へのモノレールや神戸のポートライナーが走り始めた頃、運転手がいないというので、万一のときはどうなるのか心配する声も聞かれた。しかし今や誰もが平気で乗っている。
 そのうえ旅客機にしても、いったん上空に上がれば、あとは自動操縦で飛んでいるわけで、人工知能(AI)が急速に進歩してきた今日、パイロットのいないエアタクシーもごく日常的な光景になるのかもしれない。
 なお、エアバス社は、ほかにもヴァーハナやスカイウェイズといった無人機の開発計画に参加している。このうちヴァーハナ(Vahana)は、エアバス社の系列企業がシリコンバレーで開発しているもので、今年1月31日に初飛行した。機体前後の固定翼に8基のプロペラを取りつけ、翼を立てて垂直に離着陸する。動力は電動モーター。これも混雑する都市交通に対応することをめざしている。 次のスカイウェイズ計画はシンガポールの政府と大学がエアバス社の協力を得て進めているもの。8個のローターを持つ小型VTOL機で、2~4kgの郵便小荷物を無人輸送するのが目的で、今年2月初めに試作機が飛んだ。
 実用実験では大学のグラウンドから離陸し、校舎の屋上に着陸。そこでロボットアームで荷物をつかみ、地上まで飛行して荷物を降ろすという作業に成功している。
   
 
エアバス社が構想中のシティエアバス


ブルーエッジのH160を展示
   
   もうひとつ、これは現実のヘリコプターだが、エアバス社はH160の原型2号機をヘリエクスポ会場に展示した。ローターブレードがねじれたような特異な形状で「ブルーエッジ」と呼ばれる。その3号機も昨年10月から飛びはじめ、原型3機を合わせた試験飛行は650時間を超えた。
 機体は全複合材製。振動が少なく、きわめてスムーズな飛行をしているという。しかも飛行中に何らかの問題に遭遇したときは、パイロットがボタンひとつを押すだけで自動的に危機を脱し、安全な飛行状態に戻るというシステムを内蔵している。
 今後、2018年末までには合わせて1,000時間以上を飛び、型式証明の取得に必要な試験をほぼ終了、19年6月に欧州航空当局(EASA)、その半年後にはFAAの承認が取れる見こみという。
 用途は海洋石油開発の作業員輸送、要人輸送、救急救難だが、フランス政府からも軍用機として160機の発注が期待されている。これが実現すれば、年間30機、将来は50機ずつ量産してゆく計画。
   
   
ティルトローター機の完成めざす
   
    レオナルド社では第3世代の民間向けティルトローター機、AW609の完成が当面の目標。
 試験飛行は順調に進み、総飛行時間も1,400時間に近づいた。エンジンはPT6C-67Aターボシャフト(2,000shp)が2基。操縦系統はフライバイワイヤで、垂直飛行と水平飛行との間の転換もほとんど自動化され、驚くほど操縦しやすいという。機内は与圧され、高度7,500mをヘリコプターのほぼ2倍、510km/hの速度で飛行する。
 これをビジネス機として企業の要人輸送に使うならば、オフィス・ビルの屋上から飛び立って、遠くの工場敷地へ直接降りることができる。また海洋石油開発の作業員輸送や捜索救難にも好適。救難機としては速度を上げて広い範囲を捜索し、遭難者を見つけると、その場で吊り上げ、遠くの病院へも高速搬送する。
 2019年には型式証明を取って、実用段階に入る予定。価格はまだ公表されていないが、2,500万ドル(約27億円)程度と推定されている。
 なおレオナルド社は早くも、AW609に続く次世代のティルトローター機を計画している。これは欧州が要求しているクリーン・スカイ2の基準に応じるもので、温室効果ガスの排出量や騒音を減らして環境にやさしい航空機をめざすもの。
 もうひとつ、3年前に実用化されたAW169は、日本でも数機が飛んでいるが、その売れゆきは順調。現在すでに世界中で50機以上が飛び、総飛行時間も1万時間を超えた。とりわけ要人乗用機として人気が高く、需要の4割を占めるという。
 特徴は引込み脚が電動で整備の手間がかからず、ローターシステム、エンジン、アビオニクス、トランスミッションなどにも新しい技術が採用されている。
 また総重量を4,600kgから4,800kgへ増やすキットも用意され、これをつけるとペイロードが増えたり航続距離を120kmほど伸ばすことができる。さらに注目すべきはスイスの救急飛行法人REGAの注文によって改修と開発が進んでいる全天候飛行能力。ヨーロッパ・アルプスの4,000mを超える高峰山岳地で、気象条件が悪くとも遭難者や急病人を救護できるようになるという。
   
 
わが家の居間に飾ってあるAW609の模型

 マレンコ改めコプター
   
   スイスのマレンコ社は、新しいヘリコプターの開発と製造をめざしているが、このほど「コプター」社と、尻取りのような社名変更をおこなった。改称の趣旨は、これまで技術開発企業として仕事をしてきた結果、いよいよ羽毛が生えそろい、大きく羽ばたく段階になったからという。
 目下開発中のSH09はパイロット1人のほかに乗客7人乗りで、巡航速度260km/h。2019年春までに型式証明を取り、330万ドルで売り出す計画である。
 シコルスキー社もS-97と呼ぶ「未来型垂直機」(FVL)を開発中。同軸反転式の二重ローターと尾部に推進用プロペラをもつ高速機で、米陸軍の攻撃、偵察、特殊任務を目的として試験飛行が進んでいる。このヘリコプターも作戦内容をあらかじめ記憶していて、パイロットがボタンを押すだけで、定められた任務を自律飛行によって遂行する。これが大きな特徴で、速度性能は370km/hを超える。 
   
   
変貌するヘリコプター界
   
   このようにヘリコプターの世界は今、大きく変貌しつつある。とはいえ、ヘリエクスポ会場に集まったビジネスマンたちが夢の話ばかりしていたわけではない。各メーカーそれぞれに現実のヘリコプターについても激しい受注競争が演じられた。
 たとえばシコルスキー社は改良型のS-70iブラックホークをサンディエゴ消防へ売り渡すことになった。またエアバス社は38機の受注を発表した。この中には日本からの3機、中国からの10機が含まれる。またベル社は15機の注文を獲得、スイスのコプターSH09は21機を受注し、11機の仮注文を発表した。ほかに120機分の問い合わせがきており、ドイツのミュンヘンとアメリカのダラスにも販売と整備支援のためのショップを置く計画。
 レオナルド社は米エラ・グループとの間で2020年に2機のAW609を引渡す契約に調印した。加えてAW119小型機からAW139大型機まで合わせて17機を受注。また中国からも26機の注文を受けた。
 ……かくて、ヘリコプター界は現実のビジネスと夢の自律飛行に向かって、いっそうの努力が続いている。
   
   (西川 渉、月刊「航空情報」2018年5月号掲載)    
 
未来の都市上空を飛び交うe-VTOL乗用機

 

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